第五十三話 音楽喫茶その六
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「今はないから」
「じゃあ歌わないの?」
「いや、優勝したから」
それならとだ、彩夏もそのこと自体はいいとしているのだ。
「歌うべきだけれど」
「帽子はなのね」
「それはね」
阪神帽はというのだ。
「諦めないといけないかも」
「そうなるのね」
「寂しいわね、ちょっと」
六甲おろしを歌っても阪神帽がなければというのだ。
「ないと」
「けれど皆家にあるから」
「一旦お家に帰って持って来るとかは?」
景子はこう提案した。
「それはどう?」
「ううん、それもいいけれど」
彩夏は腕を組み考える顔で話す。
「それでもね」
「ここにあればいいっていうのね」
「探してみない?何処かの部が持ってるとか」
「じゃあ野球部とか?」
景子は野球のことからこの部活を話に出した。
「そっちに行ってみる?」
「ある?野球部に」
「ないかしら」
「うちの学校のユニフォームはあっても」
「阪神帽はっていうのね」
「ないんじゃないの?」
彩夏は首を傾げさせて景子に返した。
「プロ球団のは」
「そうなのね」
「そう、だから」
それでだというのだ。
「そっちはね」
「ここにあればいいけれどな」
美優は軽音楽部の衣装を見回しながら述べた。
「それだったらいいけれどな」
「そうよね、けれどそれにしても」
彩夏も衣装を見回す、見回せば見回す程多い。
だがその中でだ、ふと。
美優は黒と黄色をかけられ下には無造作に置かれている衣装達の中で見た、あの二色を。
それでだ、こう言ったのだった。
「黒と黄色?」
「虎?」
「阪神の色じゃない」
「ああ、ここにな」
すぐ近くの衣装の山の一つを指し示して四人に言う。
「黒と黄色がな」
「あっ、あるわね」
「そういえば」
「あれひょっとしてな」
阪神ではないかというのだ。
「探してみるか?」
「そうね、それじゃあ」
「ちょっとね」
こう話してそしてだった。
五人でその山を発掘した、すると。
「うわ、何か結構あるわね」
「そうね」
「帽子もあるしユニフォームも」
「それに半被まで」
「メガホンも」
そうしたものが全て揃っていたのだ。
「何か阪神グッズ一杯あって」
「何か思った以上に」
「あるけれど」
「これは予想以上だよ」
「そうよね」
「ああ、うちの学校あれなのよ」
今度は書記が五人のところに来た、そのうえで話すのだった。
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