第一部:蒼の鬼神
悪魔と契約した少年
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「ふざっ……ふざけんなよ、このクソ奴隷がぁっ!」
握りしめられた拳が、どがっ、と少年の頬を打った。切れた口内から血が流れ出すが、雇い主はお構いなしに少年を殴りつける。一発、もう一発。さらには腹に蹴りを入れる。
「もう二度とこの屋敷に入るんじゃねぇ!テメェなんぞその辺でのたれ死んでろ!」
ばだん!と屋敷の扉が閉まる音。倒れ伏した少年は、心の中で苦笑した。またか、と。
「(これでもう三回目か……つくづく運がないな、俺は)」
少年がこのような事態に陥るのはもうすでに三回目だ。最初は主人の大切にしていた皿を何枚か割ってしまい、激怒した主に鞭打ちの刑にされた。その後、通りかかった奴隷商の男が自分を拾い、再度別の主に売り渡したのだ。
二回目の奉仕では、主人の気に入るような芸ができなかったことが問題だった。もともと道化の才はなく、奴隷牧場でも「不器用だ」と言われたものだ。
そして今回――――三回目では、主人の大取引の大詰めの大詰めでへまをやらかした。持ってくるべき資料や金を取り間違え、別の物を持ってきてしまったのだ。四歳の時に顔も知らない親の元からさらわれて、奴隷商に売り払われた少年は、頭はよくとも字は読めない。かつて奴隷牧場で友人だった少年は字を知っていたが、少年は字を覚えられなかった。
くっ、と少年はくぐもった笑い声を漏らす。
まさか、奴隷牧場の暮らしが懐かしくなるとは――――。
王国で売られている奴隷の内、多くが奴隷牧場という養成施設で育てられた存在だ。人さらいから売りつけられてきたものや、妊娠させられた奴隷の子ども、または奉仕の難しくなった奴隷たちの強制的な交合によって生まれてきた子ども達が、ここで育てられた。
生年月日は《製造年月》と呼ばれ、その番号で振り分けられる。大抵の奴隷は自分の名前を持っていない、もしくは覚えていないので、この製造年月を基準にしたコード番号で呼ばれる。その中で、まれに元の名前を持ち、その名前を名乗ることを許されている者がいる。
少年のかつての親友も、そんな中の一人だった。ヘイムダルという名前のその友人は、人さらいによって連れてこられた自分を友人と見なし、彼に名前をくれたのだ。
少年は立ち上がると、ゆっくり、ゆっくりと、壁に手を突きながら歩き始めた。できるだけ館からも、奴隷市場からも遠ざからなくてはならない。
ふと視界に、はしゃぐ子供たちが見えた。そこに少年は、かつての仲間たちの面影を見て、ふ、と笑う。
「(元気にしているだろうか、あいつらは……)」
ヘイムダルと共に、少年は《奴隷牧場一の不良集団》を率いていた。商人を困らせ、職務や訓練をサボり、数々の伝説を残した。当然、悪い意味での。
ふと何か冷たいものが顔に当
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