第一部:蒼の鬼神
悪魔と契約した少年
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たった。雪だった。そういえば、そろそろ聖誕祭の頃だったか……と思いだす。今頃主の館では、聖誕祭に向けて、食料や新たな奴隷を買うための段取りをつけている頃だろう。自分を手放したことを後悔しているだろうか……。
「……それだけはないな」
苦笑し、ゆっくり、ゆっくりと歩を進める。喉が痛い。肺が痛い。腕が痛い。足が痛い。腹が痛い。腹が減った。寒い。寒い。寒い――――
もしかしたら、これほどまでの寒さや空腹感を味わったのは初めてかもしれない。奴隷時代は、それこそペットよりも格下の扱いではあったが、ちゃんと『奴隷小屋』も用意されていたし、活動時は暖かい屋敷の中に居れた。奴隷市でも、大切な商品に傷を負わせたり、風邪をひかせたりしてはいけないために、それなりに悪くはない処置だったような気がする。奴隷牧場などでは、そこいらの平民よりいい暮らしをしている、とまで言われたほどだったのだ。
そう。この王国では、奴隷は「最下級民族」ではない。この世界における最下級民族は、「貧民」と呼ばれる、都市外周に暮らす人々だ。衛生面の悪化によって巻き起こる疫病。盗み、殺しは日常茶飯事、女は道を歩いているだけで強姦の対象にされる。いつ死ぬのか、恐怖が常に付きまとう。そんな悪夢のような街。それに比べれば、最低限の命だけは保障されている奴隷の方がまだましだ。
「(……今の俺は、まるで貧民のようだな)」
先ほどから苦笑しか出ていない気がする。このまま、この表情が顔から張り付いて離れないのではないか、と思えるほどに。
とにかく、まずは食べ物を探す。それから、布きれでもいい、何か奴隷着の上から着られるものを。そしてそれらは、大抵路地裏に廃棄されていることが多い。路地裏で死んでいく者たちの、腐りかけの体も落ちていることがあるが。
「……いざとなれば、彼らからもらえばいい」
少年は小さくつぶやいて、目についた路地裏に入り込む。
そして直後、自らの甘さを呪った。
そこには、二人の男が立っていた。一人はガタイのいい男。短く刈り上げられたくすんだ金色の髪。全身を筋肉の鎧が蓋っており、黒い外套を纏っている。目の下には大きな傷。恐らくは、暴力を生業とする犯罪者の一角だ。
もう一人は、病的なまでに細く、ひょろりとした針金のような男だった。髪の毛は剃られており、顔には卑下た笑みが張り付いている。首にかけられているのは十字架……。一目でわかる。聖職者だ。
彼らの間に置かれた巨大なトランク。そこからはみ出した何枚かの紙幣を見て、少年は眉を顰めた。
汚職――――現在の聖教会は完全に腐敗しきっている。免罪符と称して巨額の金を稼ぎ、それだけではなく犯罪者たちに裏で手を貸したりすらしているという。かつて世界を救ったとさ
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