暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
夢のあとさき
参拾伍 一生分の夏
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いた。
そして今日、藤次の話を聞いて、その感覚は更に強まる。こんな自分が、歯痒い。

「やめて下さいにゃ!そんな風に自分を駄目だと思うのは!」

真理がそんな真司に突然詰め寄った。
強い口調に、真司はギクっとする。

「オオカミ先輩が律教に行けたのは、甲子園まで行って、なおかつそこでホームランも打ったからです!でなきゃ、こんな高校の選手に律教からの誘いなんて来るはずないにゃ!トラ先輩がここまで良いピッチャーになったのは、それは去年のわんこ先輩を目指して、それに追いつこうと努力したから!2人とも、わんこ先輩のおかげで今があるようなものなんです!」

真理は怒っていた。
真司が平気で自分を貶める事に。

「…ま、それはあると思いますよ。鈴原さん、仙宗に受かったって話、誰より碇さんにしたがってましたからね。あの人は、碇さんには絶対言いませんけど、相当感謝してますよ。
“あいつがおらなんだら、ただ適当に野球して終わってたわ。こないして野球で大学は行けんかったやろな”
これ、グランドに合格報告に来た日に言ってた言葉です」
「…………」

青葉が真理に続けて言う。
真司は、何も言えない。

「……正直、僕も鈴原さんと同じです。僕は最初は全然、真面目に高校野球やる気は無かったんですけど、去年の夏に碇さんに甲子園に連れていってもらって、本当に考え変わりました。碇さんが居たからここまでガチになれました。今は剣崎さんみたく六大学で活躍するのが夢です。僕が野球に夢を見れるようになったのは、碇さんがまず、夢を見せてくれたからです。」
「……僕だけの力じゃ無かったよ、あの夏は」
「でも碇さんが居なければ絶対に甲子園には行けませんでした!」

真司の目を見てキッパリと言い切った青葉。
その強い視線に、真司は息を呑む。

「僕らみんな、碇さんに感謝してます。だから、あんまり卑屈にならないで下さい。例え今、100キロも出なかったとして、あの夏の碇さんの姿は否定されません。身を削ってでも投げてくれたあの姿を、僕らみんな、絶対に忘れませんから。」

最後まで聞くと、真司は何故かやたらと腹の底が熱くなった。その熱はどんどん頭の方に上がってきて、気がついたら、目から雫となって溢れ出した。

真司は泣いた。
最後の夏に負けた後でも涙は出なかったのに、
この時ばかりは涙が止まらなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーー




「……終わった?」
「うん、帰ろう。」

真司が充血した目で教室に戻ると、残っているのは玲だけだった。
玲は真司が帰ってくるとすぐ、荷物を鞄に詰め込んだ。普段よりその動作が乱暴なのは、気がはやってるからだろうか。
交際してそれなりに長いが、最近はあまり、2人で帰る事が無かった。
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