夢のあとさき
参拾伍 一生分の夏
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ぼんやりと虚空を見上げるだけ。
そんな真司に、薫が声をかける。
「…もう一度、バッテリーを組みたかったね…」
感情を押し殺したような薫の声に、真司は頷く。真司の背番号は3、薫の背番号は8。
昨年夏の甲子園以降、真司は肘と腰を壊した。
全く球が投げられなくなり、結局手術を行わざるを得なかった。懸命にリハビリしたが、最後までピッチングができるほどにはその状態は戻らなかった。薫はそんな真司を見て、捕手を辞めた。藤次との噛み合わせもあり、捕手を健介に譲って自身は3番センターとして打線の柱になった。薫としてはどうやら、真司以外の球を捕りたくなかったようだ。
「負けた……」
真司はつぶやく。
「負ける時は、こんなに、あっという間なんだ……」
ーーーーーーーーーーーーーーー
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪
チャイムが鳴って、真司は我に返った。
気がついたら授業が終わっていた。
担任が入ってきて、帰りのホームルームが始まる。
「みんな、模試の結果が返ってきたわよォ〜。はい、まずはシンちゃん!」
3年になった真司の担任も美里だった。
大学受験を控えて殺伐としがちなクラスの中で、この美里が1番元気である。
それは空気が読めていないのではなく、意識的にそう振舞ってのものだった。
「……あぁ…」
「また上がったじゃな〜い。頑張ってるわね」
「…元々が低いですからね」
「上がったのは事実よ!はい、伊藤く〜ん!」
模試の結果のプリントを眺めて、真司は神妙な顔を作る。野球が終わってからそれなりに勉強はしていた。勉強した分だけ成績も伸びたが、だがやはり、それなりという感は拭えない。
「碇君、今日、一緒に帰る?」
席に戻ってため息をついていた真司に、自分のプリントを受け取った玲が声をかける。
「あっ……いや、ちょっと今日は行きたい所があるんだ」
「……グランド?」
「………」
玲の返しに、真司はギクッとした。
最近、何を考えているかまで、ピタリと当ててきたりする。
玲は薄い笑みを浮かべた。
「終わるまで、教室で待ってるわ」
「えっ?悪いよそれは」
「いいの」
言い残して、玲は自分の席に戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「…!碇さん、こんにちはっ!」
「「「こんにちはっ!」」」
雪が積もってしまった為、グランドを諦めて室内運動場でウォーミングアップしていた野球部。
青葉が真司に気づいてすぐ立ち上がり一礼すると、残りの40人近い現役部員も同じように頭を下げた。
昨年夏の甲子園出場を受けて、この春に新入部員は30人を越えた。国立高校、頭も悪くない、生徒中心の運営…中学球児に人気の出
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