夢のあとさき
参拾伍 一生分の夏
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に、律教のベンチに円陣ができつつあった。
「おい、剣崎」
「ああ。碇!よく見といてくれ!そしてまた、チャンスがあれば一緒に野球やろうじゃないか!」
そう言い残して剣崎と琢磨は真司のもとから離れていった。真司はその2人の大きな背中を見送った。
「ピッチャーらしくねぇな〜思ったよりナヨいじゃん」
琢磨が剣崎に言うと、剣崎は苦笑した。
「繊細な奴だよ。マウンド以外じゃ、ずっとあんな感じさ。ただ…」
一度、剣崎は真司が居た方を振り返る。
「そんな奴が、マウンドでは打者を恐れない。自分の球を信じるんだから、不思議なものさ」
琢磨はフン、と鼻を鳴らして「確かにな」と頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーー
パカッ!
金属バットの高音とは違った、木製バットの乾いた弾けるような音が響いた。
打球は無人のライトスタンドへポーンと跳ねる。
応援団が一気に湧き上がる。
打った剣崎は大きくガッツポーズをしてダイヤモンドを回る。試合を観戦に来た真司の目の前で、自身大学初本塁打を放って見せた。
「ナイスバッチ。」
「情けない姿見せられんからな」
自分の前に出塁していた琢磨とホームイン後、ハイタッチして2人はベンチへと帰っていく。
(……相変わらず、スイングスピードといい、狙い球を見逃さない鋭さといい、凄いな剣崎さんは)
客席でその様子を見ている真司は、自分の先輩のプレーにため息をついた。
(…大学野球か)
その胸中には、今年の夏の大会が終わった時の事が去来していた。
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今年の夏も暑かった。
その猛暑の中、ネルフ学園は2年連続の準々決勝へと駒を進めていた。
準々決勝の相手は、昨年夏初戦で下した八潮一高だった。
「この相手にだけは負けられない」という、凄まじいまでの執念が感じられた。終盤までリードしていたが、結局試合をひっくり返され、おしくも4-5でネルフ学園野球部二度目の夏、そして真司達の最後の夏は終わった。
「すまん……みんなすまん…ワイの力が、足りへんかった……」
試合後、藤次は泣き崩れた。その背中には、背番号1がついていた。藤次は3年生になってから急成長し、県の上位で十分勝負できる左腕になった。1年秋の制球難は影を潜め、140キロ近い真っ直ぐとスライダーを武器にした好投手になった。
「いや、よくやったよ、よくやった…頑張ったよ、俺たち…」
藤次を慰めながらも、自分も眼鏡の奥の目を真っ赤に泣き腫らしているのは健介。プロテクターとレガースを付け、背中には背番号2。捕手にコンバートしても堅守は変わらず、主将としてチームを引っ張った。
「…………」
真司は、
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