飛び出したり 誘ったり 飛びかかったら その2
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いただいた鉢って、まだありますか? もう一度もらいたいんですけれど……」
「そりゃあいいけど……昨日のはどうしたの?」
「それが、お父さんがなにを間違えたのか庭に植えちゃって。ほんっと、信じらんない……」
呆れたようにため息を吐いた和奏に、花谷さんはいつもの人のいい笑顔を彼女に向けた。
「ははは。まあ、圭介さんもどこか天然なところがあるからねぇ。仕方ないよ」
(植えたって、おいおい……)
和奏は衛太郎と同じクラスメイトだ。ならば当然、学校での予定はほとんど同じ内容となる。
今日は担任教師である高橋先生の送別のために各自で贈り物を用意するように決めていたのだが、どうやら和奏は父親がダメにしてしまったプレゼントを買い直しに来たようだ。
そこまで察すると、衛太郎は受け取った花を原付きの台座に備えた。
「それじゃあ、俺はこれで……ありがとうございました」
代金はすでに払い終えたので、後は挨拶をしていつもの登校にもどるだけだ。
「ああ、うん。また午後に、よろしくね」
にこやかに送り出してくれる花谷さんに軽く頭を下げてから座席に腰掛けると、差し込んだままのキーを回しどこか抜けるようなエンジン音を確認した。
「津川君。また後でね」
和奏に言われ、そのまま振り返る。
見れば、和奏がこちらに向かって小さく手を振っていた。
しかし、やはり衛太郎は目を合わせない。
「うん。また、後で……」
少しだけ手を上げただけで、逃げるようにアクセルをかけて発進した。
だんだんとシャッターを開いていく商店街に並ぶ店舗を通り過ぎ、湘南の長い坂道を下って行く。
学校に着くまで、あと少し。
(高校生でいられるのも、あと半年もないか……)
不意にそんなことを考えるが、安全運転を第一とする衛太郎はすぐに頭を切り替える。
湘南に来て三年目の朝は、今日も穏やかだった。
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