暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜慟哭と隔絶の狂想曲〜
少年と女性
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けど、できない。いや、できないと言うよりは――――したくない。

思い出したくもないあの出来事。アインクラッド第二十五層ボス攻略戦で起こった悲劇。

一匹の黒猫が命を落とした、別れの惨劇。

「……………………………」

ぎゅっ、と。

レンは首元に巻きつく漆黒のマフラーをいっそう巻きつけた。

別に寒かったわけじゃない。ただ、ただ思い出してしまったからだ。こんな、血に塗れた一人の少年を助けた、あの子猫のことを。

辛かっただろう。

苦しかっただろう。

痛かっただろう。

憎んだだろう。

だけど、だけれど、それら全てを吐き出す黒猫は、もういない。

―――そっか。あの時以来なんだ。こうやって、誰かに触れ合ったのは。

そして、他者から《敵意》や《殺意》以外の感情を向けられたのも、ずいぶんと久々のような気がする。

血や刃が飛び交う戦場の中に身を投じていたからこそ、少年は戸惑う。

心の奥底で疼く、この奇妙なモノは何なのだろう、と。

人はそれを様々な名称で呼ぶかもしれない。

ある人はそれを愛情と言い

ある人はそれを飢えと言い

ある人はそれを恋心と言う。

名称は人それぞれだろうが、しかし十人に訊いて十人が共通して言う答えが一つあるだろう。

その感情は、決して悪いものではない、と。

しかし、そのことをこの少年は分からない。

鈍いから、鈍感だから、解からない。

自分に何が起こっているのか、自分はどうしたいのか、自分はどうすればいいか。

何一つ分からない。










――――でそれでね、ってお姉さんの話聞いてる?」

ぼんやりとした思考の海に潜っていたレンは、ハスキーな声とともに現実へと引き戻された。声の発生源はもちろん、向かいに座る女性だ。

あぁ、と咄嗟に生返事を返すと、見透かされたのか思いっきり下唇を突き出された。

「聞いてなかったんでしょ」

「い、いやそんなことは」

「ふっふ〜んだ。お姉さんはお見通しですよー」

うーむ、とレンは思わず唸った。

久し振り過ぎて、どういう会話をしたもんか見当もつかない。

逃げ場を求めて卓上に並べられているはずの様々な料理を見たが、いつの間に食べたのやらあらかた片付けられてしまっていた。どうやら、半自動操縦状態だった自分が食べてしまったらしい。

こんな局面でも、きっちり食い意地の張っている己の肉体がちょっぴり恨めしい。どうせならついでに眼前の問題にも対処して欲しいところだ。

だがそんなことを言ったって身体が返事をしてくれる訳もなく、代わりに腹の辺りから満足そうな音が聞こえてきた。

リータはしばらく、慌てふためくレンを
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