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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第48話 「嵐の前触れ」
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「どういう事ですか?」

 ヤンの声が潜められた。
 アッテンボローも身を乗り出してくる。
 俺の机を囲んで、三人でこそこそと小声で、話し出す。
 まるで悪巧みをしているような気分になった。

「いや、ロボス司令長官率いる六個艦隊は、アスターテまで、強行軍で進軍し、その後、帝国軍と遭遇する前に、撤退する。出撃したという事実のみを帝国に突きつけるんだ」
「それって……」
「まるで……ピンポンダッシュですね」
「しかしうまくいけば、六個艦隊は無傷で帰還できる。今この状況で、六個艦隊も失うわけにはいかない」
「まさしく、奇策ですね」
「そうだろう。俺も聞いたときは驚いたね」
「よほど、ロボス司令長官の幕僚達は必死に考えたんですね」
「いや、大したもんだ。いえ、冗談ではなくて、本気で言ってますよ」

 アッテンボローがいつもの冗談口調ではなく、本気で感心している。
 ヤンも驚きを隠せないようだ。

「一戦もせずに引く。できそうで中々できない事です。しかし帝国に対する政治的な意思表示にはなる。そして同盟は戦力を温存する」
「あのプライドの高い連中がねぇ〜」
「自身のプライドよりも、同盟の未来を考えたんだ。はあ〜」

 ヤンが深いため息をついた。
 エリート組の本気を見たな。あいつらも中々バカにはできんものだ。
 シトレ校長とロボス司令長官との間にも、協力体制ができたし、サンフォード議長も軍との関係がうまくいき始めている。

「つまり、政府と軍が協力体制をとったという事ですか?」
「そう、そうなんだ。今までのように政府に振り回される事もなくなるだろう。もちろん、軍は政府に対して、正確な報告を提出するようにとの厳命が下されたが、ね」

 今までのようにあの皇太子に、一方的に振り回される事もなくなるだろう。
 同盟は帝国に対抗できる。ようやく体勢が整いだした。
 その実感に身震いする思いだ。

 ■宰相府 オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵■

「卿には、自由惑星同盟首都星ハイネセンに出向いてもらう」
「彼らの首都にですか?」
「そうだ」

 皇太子殿下に呼ばれ、宰相府に出向いた私は、いきなりそう言われ、困惑を隠し切れずにいた。
 椅子に深く座ったまま、皇太子殿下が話し始める。
 このお方は冷静だ。落ち着いている。

「何ゆえにでしょうか?」
「地球教だ。あの連中、帝国と同盟を共倒れにするつもりらしいぞ」
「バカなっ!! いえ、失礼しました」

 声を荒げてしまったが、慌てて謝罪する。
 皇太子殿下の前だった。
 しかし皇太子殿下は気にした風もなく、落ち着いている。

「いや、卿がそう思うのも無理はない。誇大妄想だろうが、本気で策略を練ってきたらしい。そしてそ
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