暁 〜小説投稿サイト〜
皇太子殿下はご機嫌ななめ
第48話 「嵐の前触れ」
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
な。今ならまだ間に合う。そう思われたからこそ、自ら立たれた」
「その際、ただ漫然とこのままでは行かない、そう考えたと思うのか? 何を根拠に立たれようとしたのか?」
「貴族の横暴や汚職。それに社会不安や長い戦争だろう?」

 ブラッケが自信ありげにそう口にする。
 オーベルシュタインが、軽蔑を露にした視線を向けた。
 あ、だめだ。こいつ、皇太子という、お立場を分かっていない。貴族の横暴も汚職も社会不安も、すべて平民相手の事だろう。そんな下々の事など、無視しようとすれば無視できるのだ。
 門閥貴族どもが気づかなかったように、現皇帝陛下が眼を瞑っていたように、皇太子殿下も目を瞑ってしまえば良い。
 それだけであのお方の周辺では、何事も起きない。
 のほほんっとしていられる。少しずつ崩壊を続ける帝国。それすら気にも留めない。そんな貴族がどれほど多かった事か……。
 その上、眼を瞑り、見ない振りをしてきた皇帝。皇太子殿下も、その中に埋もれてしまえば良い。下々の事など無視すれば良いのだ。それができる。できたはずなのだ。

「だというのに、あえて下々に目を向け、問題を直視なされた。その時、帝国だけを見たと思うのか? そんな筈はあるまい。同盟の事も、フェザーンの事も見られただろう。社会制度も現状も調べられたはずだ。あのお方は帝国の問題を直視なされたのだ」
「同盟の社会体制や問題点など、とうの昔にご存知だ。卿のように民主共和制に、過度の期待などしておらぬ。だからこそ、現実を見てこいとフェザーンに卿を寄越された」

 オーベルシュタインの声に冷たいものが混じりだした。絶対零度の氷のようだ。だが、ブラッケはいまだ認めたがらない。プライドだ。つまらぬプライドが認める事を拒絶している。
 薄皮のようなプライドが破れ、現実を直視できたとき、こいつは文字通り、一皮剥ける。
 宰相閣下もそれを期待されているのだろう。

 ■自由惑星同盟 ロイヤル・サンフォード■

 アンドリュー・フォーク中佐が私を訪ねてきた。
 今回の出征について相談があるというのだ。私室の応接間で応対したものの、フォーク君は椅子に腰掛けるよりも先に、口を開いた。
 滔々と語られる言葉に、政治家である私ですら、圧倒されてしまう。

「閣下。今回の出征についてですが、なにも帝国軍とぶつかる必要などないのです」

 いきなり何を言うのかと思ったが、聞いているうちになるほどと思えてくる。
 中々に弁が立つ。
 しかし同盟軍は、アスターテまで強行軍で向かい、さっさと戻ってくる。それだけでいい、か。なるほどな。

「誰もいないアスターテで、いつまでも帝国軍が待っていられる訳ではありませんし、かといって有人惑星を占領できる訳も、ハイネセンまで進軍できる訳でもありません」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ