暁 〜小説投稿サイト〜
皇太子殿下はご機嫌ななめ
第48話 「嵐の前触れ」
[1/7]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 第48話 「ここからが始まりだ」

「――皇太子殿下」

 アンネローゼの緊迫した声に振り返ると、僧頭の迫力のある大柄な女性が、扉越しに姿を見せた。
 しかしどこかで見たことがあるような……気がする。
 何者だ?
 脳裏でめまぐるしく、原作の登場人物の名が過ぎった。
 該当者はいない。
 そのはずだ。
 しかし脳内で、警告じみたアラームが鳴り響く。

「アドリアナ・ルビンスカヤさんがお越しになりました」

 アンネローゼが名を告げた瞬間、全身の産毛が逆立った。
 こいつが来たのか……。
 ホワン・ルイが女だったからな。なんとなく嫌な予感がしていたんだ。
 フェザーンから黒狐ではなく、女狐が出てきやがったぜ。

「わかった。連れて来い」

 宰相府内の応接間に案内させる。
 いきなり肩が凝ってきた。気分も滅入ってくる。
 はぁ〜ため息も出てきたぜ。
 やな気分だ。

 ■フェザーン自治領 ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ■

 民主共和制の実態を見て来い、という宰相閣下の命により、カール・ブラッケがフェザーンにやってきた。
 積極的に同盟関係者と会談を繰り返しているものの、表情は優れない。
 それどころか、だんだん顔色が悪くなる一方だ。
 来た当初のばかばかしいぐらい、きらきらした目の色など微塵も感じられない。

「理想や理念は素晴らしいのだが……」

 ぽつりとそう零す。
 バカが、そんな事は宰相閣下が常々仰っていた事だろう。
 あのお方は我々以上に、民主共和制を知っておられる。よほどお調べになられたはず。その上で、民主制にも共和制にも、夢は持っていないと言われたのだ。

「あのお方は、皇太子殿下だぞ。自他共に認める皇位継承権第一位。次期皇帝陛下だ。そんなお方が帝国改革を主導されているのだ。そのことの意味を考えた事があるか?」
「意味?」

 ブラッケが不思議そうな表情を浮かべた。
 俺の隣に座っているオーベルシュタインが、イラッとした表情を見せる。こいつは頭の回転が速いからな。俺の言いたい事が理解できる。
 だからこそ、そのことの意味を考えてこなかったこいつに、腹を立てているのだ。

「おとなしく口を噤んでいれば、何事もなく、皇帝になれる」

 俺がそこまで言った後、オーベルシュタインが、

「よく冗談めかして口にされる、贅沢三昧、自堕落な酒池肉林すら、当たり前のように手に入るのだ。それらを全て捨て去ってまで、改革に乗り出された。そのことの意味だ」

 そう続けた。
 オーベルシュタインは宰相閣下の事を、心から敬愛している。彼の理想にかなり近い君主らしい。

「それはそうしなければ、帝国が立ち行かないところまで来ていたからだろう?」
「そうだ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ