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暗黒の時代
第1話
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「・・・っ」

 少女はどれほど気を失っていたのか、細い上半身を起こして定まらない焦点で周囲を見渡した。だが、60ミリ榴弾によって辺りには土煙が舞い散り、二重、三重に揺れる視界と合い重なって状況を把握するまで数秒の間生まれたての子牛のように弱々しくその場に留まっていた。

(・・・そうだ、街の人達は・・・)

 少女は霞む視界を元に戻そうと、顔立ちとは似つかわしくない無骨なグローブで目蓋を擦った。粘着質な生暖かい液体を顔に感じ、彼女はハッと我に返り、そこで初めて自らの両手が血塗られている事を理解した。

「アッリちゃん!」

 数秒前まで手を繋いで駆けていた幼女の安否を確かめようと、泥臭い戦場に少女の甲高い声が木霊する。しかし遠くに篭った銃声が断続的に聞こえるだけで、誰からの応答も無かった。彼女の脳裏に最悪の事態が浮かび上がり、頭に血液がのぼり、毛穴という毛穴から何か得体のしれない物質が流れ出そうな気分にさせる。
 昂ぶる感情を落ち着かせようと、少女は震える身体に鞭を打ち、辛うじて見て取れたシルエットに片足を引き摺りながら歩み寄る。
 土埃が地面に落ち切り、それが何であるか分かるまでに近付くと、「それ」は少女に顔だけを向けて辛うじて聞き取れるほどの声量で呟いた。

「・・・ぉ・・・おねえちゃぁ・・・ん・・・」

 その幼女は身体の損壊が酷く、幾度無く修羅場をくぐり抜けてきた少女でさえも目を覆いたくなる位だった。それでも生きていられるのはショック状態であるからだろう。このままでは長くは持たない―・・・近くの利用できる医療機関まで輸送用のVTOL(垂直離着陸機)で急行したとしても間に合わない。アッリに駆け寄った少女の冷静な部分がそう告げていた。彼女は零れ出しそうな感情を純白の歯で噛み潰すとその幼女を細い身体で抱きかかえて黒髪を慈しむようにゆっくりと撫で、穏やかにたずねた。

「平気?痛くない?」
「痛いよ・・・いたいよぉ・・・助けて、フォーリシアお姉ちゃん・・・」
「大丈夫、今楽にしてあげるからね」

 フォーリシアと呼ばれたブロンド髪の少女は、小麦色の顔で精一杯の笑顔を見せると爆風の被害から免れた胸元のポーチを探り、医療用モルヒネを取り出すと口で保護キャップを外してそのまま地面へ吹き落とした。赤黒くなった肌に眉をひそめるでもなく、終始穏やかな表情で淡々と作業を進める。細い針を打ってから暫く経つとアッリは瞬きを何度か繰り返して強張っていた表情を緩め、とろんとした表情になる。

「ね、楽になったでしょ?」
「うん・・・でもね、おねえちゃん。なんだか・・・眠いの・・・」
「アッリちゃん頑張ってたから、疲れたのよ。今は眠って、ね?」
「・・・」
 
 幼女は出かけていた言葉を飲み込むと、弱々しく口の端を上げて笑
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