暗黒の時代
第1話
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って見せた。そして、漆黒色の強化グローブに包まれた小麦色の細くて長い指をトレースするかの様に小さな手を摺り寄せて目を閉じ、こう言った。
「・・・おやすみなさい、フォーリシアおねえちゃん。・・・・・・バイバイ」
「・・・ッ!」
最後の言葉が耳に飛び込んできた瞬間、感情の波が容赦なく襲い掛かり、フォーリシアから微笑を奪い、大きな薄紫色の瞳の端から留まる事を知らずに溢れ出る。
「・・・ぁッ・・・!・・・・・・ぅぁ・・・ッ!」
フォーリシアは感情のおもむくままに泣いていた。ただ、泣き叫んでいた。腕の中で急激に冷めていく魂を抱きしめながらよりいっそう泣いた。
何度嗚咽を繰り返しただろうか。頬を伝う涙の後が幾筋もできて痛々しい顔を上げて改めて周囲を見渡した。
数分前まで9人の市民と共に裏路地を進んでいた地点には大きなクレーターが出来、乾レンガの壁は無残にも飛び散り、向かい側の建物は半壊していて今にも崩れてきそうだ。それよりも、着弾地点付近は凄惨を極めていた。ライトアーマーと言われる強化スーツに身を包み、かつ先導していて着弾した地点から最も遠かったフォーリシアだけが生き残った形になる。彼女は憔悴しきった心で遺体を静かにおろすと、精気の抜けた身体を立ち上げ、虚ろな薄紫色の瞳を真下に動かして網膜ディスプレイを操作し、スーツのステータスを確認する。
(背部全体がオレンジとレッド、通信途絶、運動機能が40%低下・・・それ以外は問題なし・・・)
主駆動部とオペレーター(装着者)に致命的なダメージが無かったのは幸いだが、ライトアーマーの特性である運動性能が大幅にダウンしている点は見過ごせなかった。自動修復機能を用いても完全に回復するのはまず有り得ない事であり、今の損害を考えても数十分身を潜めたところで戻るのは損害に対して5割ほどだ。
次に手元の武装を確認する。PDW(パーソナルディフェンスウェポン・個人防衛火器)は衝撃で大きく歪み暴発の危険性があるので使用不可。PDWと弾薬が共用の貫通力に優れた5.7ミリの小口径ハンドガンが1丁に、20発が装填できる予備マガジンが3本。近接戦闘用の肉厚でボディーアーマーの防刃プレート部を易々と引き裂けるダマスカス鋼のコンバットナイフが1本。同じ素材で出来た投擲用のナイフが2本。
(少ない。だけど・・・)
厳つい漆黒のグローブで拳をぐっと握り締めると、第三世代のナノ・アクチュエーターが瞬時に反応し、オペレーターの筋力を数倍に引き上げ、強化繊維越しにも痛い程の感触が伝わってくる。そこまでの動作をし、背後から忍び寄る数人の気配を察知してゆっくりと両手を上げた。
「へへっ、素直でいいぜ。嬢ちゃんよ」
下卑た声が裏通りに響き、ジャリ、ジャリと複数の足音が等間隔に散開して近付いて
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