許容しがたいことは誰にだってあります。
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室内に一つしかない窓はこちら側にあって、窓際には大量のサボテンが居座っている。
そして、もう片方は一言で表せば小さな本屋だ。
背中合わせに設置された本棚が3列と、それを囲むようにコの字型で本棚が設置されている。 中に納まっている本はすべて囲碁に関する本だ。
どの本も繰り返し繰り返し何度も読んだせいでボロボロだが、それだけ一冊一冊に歴史があり、俺の宝物なのだ。
部屋いっぱいに広がる紙の匂いが好きで、この部屋にいるとそれだけで癒される。
いつの間にか匂いが移って体臭のようになってしまい、高校の同窓会なんかに出席すると『図書館で働いてるんだっけ?』なんて聞かれることもしばしばだ。 別に臭いわけじゃないし大丈夫だよな……?
「少し見ても良いか?」
「もちろん」
興味津々な様子で本棚を見て回る美鶴を尻目に碁盤を広い場所に移し座布団を床に敷いて対局の用意を進める。
「どの本も相当読み込まれている……師匠がいないというのは本当のようだな」
「何だ、信じて無かったのか? まぁ、ネット碁で強い人達に教えて貰ったりしたから、ある意味ではその人たちが師匠とも言えるけどな」
「そういうのは師匠とは言わない。 ……父の本が多いようだが――」
「当然! 香坂砕臥先生は俺の憧れだからなっ!」
あの重厚な守り! 石の流れの美しさ! 相手を完膚なきまでに叩き潰す苛烈な攻め! あの人の棋譜を初めて見た時、俺が感じた衝撃をどうやって言葉に表せば良いだろうか! それはただの棋譜なのに、まるで香坂先生本人がそこにいるかのような存在感、迫力を感じた程だ!
そう、初めて棋譜を見たその時から、雷に打たれたような衝撃と共に俺は香坂先生の大ファンなのだ。
「なるほど。 ……そして俺の本は一冊も無いんだな……」
「ん?」
「いや、何でもない。 確かに言われてみれば椎名の棋風は父と似たところがあるな」
「な、何言ってるんだよぉ! 俺なんかまだまだ香坂先生の足元にも及ばないって!」
「……似てると言っただけだ」
棋風が似てると言われてついつい頬が緩んでしまう。 一番近くで彼を見てきたであろう、香坂先生の息子に言われたのだから嬉しさも一入だ。
だが、間抜けなにやけ面を晒しているだろう俺をみて、美鶴はふと自嘲を浮かべた。
「……確かに父は強いが、俺は父に負けるつもりは無いし、対局時には必ず勝つつもりで打っている。 ――俺のライバルである椎名にそういうことを言われると……複雑だ」
いや、今の実力で美鶴が香坂先生に勝てるわけ無いだろ、と香坂砕臥信者の俺は一瞬思ったが、考えてみれば美鶴はタイトルホルダーだ。
香坂先生と、親子としてではなく対等の棋士として公式の場で戦う機会も多いだろう。 簡単に勝てないとか弱音を吐
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