彼女の家は何処か
[1/13]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
追撃を逃れた先、夜を徹しての行軍にも兵達は愚痴ひとつ零さず、全ての者達が目を爛々と輝かせてついて来てくれていた。
血に飢えた獣ではなく、誇りを掲げる全ての兵が一騎当千の武人の如し。
先の戦場を思い出せば私ですら血が滾る。
身震いを一つして高まった感情を追い払い、各所に救援依頼に向かわせた伝令は行き着いただろうかと先ほどの事を思い出す。
屈する事をしないと決めたからには最後まで戦い切らなければならない。
情報では今回の主だった者は総大将である麗羽を筆頭に、軍師郭図、二枚看板である顔良と文醜、星と同等の実力を誇る張コウとのこと。
大抵の相手との戦であれば敵の総大将を討ち取れば引き返していくモノだが……袁家が相手ではそうも言ってられない。
奴らの目的はこの幽州の地の掌握であるのだから、どんな事が起ころうともあらゆる理由をこじつけて奪いきるだろう。
結果として起こるのは顔良と文醜の士気低下ではなく、逆に士気高く捨て身でこちらに向かってくるはず。
ふいにかつての友の命を奪う算段を立てる自身の心が少しだけ軋む。胸に手を当ててまた一つ覚悟を高める。
分かっている。これは戦だ。甘えた事は考えるな。私の手で麗羽の命に幕を降ろし、あいつの代わりに腐れた者を出さないようにすべきなんだ。
それに、もはやこの戦力差では捕えて三人の仲の良さを利用し、離間計を使う事も望みが薄いだろう。私の所に総大将を捕える為に敵本陣に特攻してくれる将が一人しかいないのが悔やまれる。
先の戦いが一番の好機であったが……さすがに罠と分かっていた時点でそれをさせる訳にはいかなかった。張コウが来るモノとばかり思っていたのも悪かったか。
冴えた頭で先の戦を思い出す内に一つの懸念が頭を掠め、さらに思考に潜る。
籠城戦はしてはならない。
私は忘れていた。秋斗がどの軍師も考えつかなかった攻城戦での有効な策を私達に示した事を。あの策を用いられたら士気は落ちずとも兵の疲れが跳ね上がる。
あの時は単純に敵の士気低下により決戦を促す事だけに目をつけていたが、今考えると効果が凄まじい。
睡眠不足による疲労困憊、連続的な戦による思考の束縛や焦燥、周囲の味方への情報遮断、他にももっとあるだろう。
ならば、これを袁家が使わないはずはない。
奴らはやはり時機を見計らっていた。思えば糧食の消費は念入りに計算していたから張純がその情報を流せば容易に日にちを推察出来るだろう。
毒が行き渡る時機と同時に心を揺さぶり、不和の兆しを齎した状態であの攻城戦策を用いて心を叩き潰す。
確かにそんな状態では、普通の軍ならば脱走や混乱が起こっていた事は予想に難くない。足並みの揃わない軍となって容易に打ち破られていたことだろう。
だが、敵は見誤ったな。私達の軍は揺るぎなく
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ