彼女の家は何処か
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や袁家、一部の隊が乱れても物量と斥候による早期予測でなんとかしてくるだろう。その隙に誰が動くか。決まっている。一番厄介な張コウが必ず白蓮を狙いにくる。
それを止めるのが星自身でも尚遅い。膨大な兵による肉壁による時間稼ぎの後、顔良と文醜の二枚看板にぶつかられてしまうと、血路を開き切る力が白蓮や牡丹には残されるはずもないのだから。例え死兵となった隊の者でも、この疲労困憊の状態では長くは持たないのだから。
「私に……今も侵略者と戦っている者達を見捨てろと、そう言うのか」
ギリと噛みしめた歯の隙間から引き絞られた言葉に兵も、牡丹も、星もハッと気づいた。
どこまでも白蓮は仲間思いで、優しい人である事を忘れていた。だが、
「……白蓮様、私達は死んで行ったあいつらになんと答えればいいのですか。今もこの地を守る者になんと言えばいいのですか。あの世で主を、家を守れなかったと懺悔すればいいのですか」
牡丹の返答に白蓮の顔が苦悶に歪む。
――もうこいつらは梃子でも動かないだろう。
白蓮も頭では理解しているが、心が未だに拒絶している。堪らず、一人の兵士が声を上げる。
「公孫賛様、俺はこの地を守る為にある部隊から戻ってきた者です」
その場にいる全ての者が何を語り出しているのかと疑問に思った。何故、この時機でそんな話をするのだろうか、と。しかし続けられた言葉によって全てを理解する事になった。
「その隊の名は劉備義勇軍徐晃隊。公孫賛様もあのお方の想いを知っているはずです。全ての想いを引き連れて、誰もが望んでいた平穏を作り出す為に戦う、と。公孫賛様……今戦っているあいつらのも、俺達のも、全ての想いを平穏な世に連れて行ってください」
徐公明の隊の者は例え離脱しようともその心を引き継いでいる。彼はそんな一人。己が家を守る事を決して袂を分かった者であった。
白蓮はその言葉を聞いて、少しだけ笑みが零れた。昨日の星の言葉も、牡丹が語った本心も、長老からの書簡も、兵の言葉にすら一人の影がちらついているのだと気付いて。
――ああ、秋斗。お前は距離が離れていようと、私をこんなにも助けようとしてくれるんだな。
屈辱に塗れる心も、悔しさにのた打ち回る想いも、彼女を未だに苦しめている。幽州を守ると決め、その為に散って行った兵士達の無念を知っているからこそ、自分だけのうのうと生き残るなどと……責任の糸は彼女を締め付けている。
それでも、仲間全てから突きつけられた優しい裏切りは彼女の心を挫き、一つの責の糸を解き、新たな責の糸で縛る事によって、
「……お前達の想いは……確かに受け取った……全軍に告ぐ!……っ……私はっ……この、幽州の地を……離れるっ!」
誇り高き生き様を泥濘の中で足掻こうする生へと変えた。
兵達は主の苦渋の決断に涙を流す。事実上の敗北宣言。
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