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乱世の確率事象改変
彼女の家は何処か
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ず阻止するように動くだろう。それに敵はただ時間を浪費するだけでも勝てる。
 普通の戦ならば籠城による兵糧の枯渇を狙えるが、たった一つの裏切りで大きな集積所の全てが看破されているため、米の一粒残さず奪われているだろうからまずありえない。本城での籠城戦もあの洛陽大火がちらついて出来るはずもない。
 命を賭して戦を行う気概は持っている。武人としての矜持であり、乱世で戦い人を救う事を望んだ時に死への恐怖は呑み込んでいる。この命果てようとも守り抜きたいモノが確かにある。
 白蓮もその気持ちが同じである事は星も理解しているし誇らしく思っていた。
 同時に、白蓮が本城に籠ったまま、兵力を少しでも増やしてから籠城するという選択を行わないのは騎馬が潰れる事や一つの策を恐れての事ではない、と星は気付いていた。
 民への被害、兵への莫大な負担を考えて。そんな理由も確かにあるだろう。しかしずっと、最初から白蓮は無意識の内に一つの事を恐れていた。だから本城への帰還だけは頭に浮かばずに苦渋の選択で最後に行った。
 彼女は自分が治めている街を、一から作り上げてきた街を、星や牡丹や秋斗との思い出がたくさん詰まった街を、洛陽のような戦火に沈めたくないのだ。
 幽州全てが彼女の家である事は変わりない。しかしそれでも特別な場所というのは存在する。誰であってもその場所を壊される事は耐えられないモノだろう。戦略的に見てどちらを選んでも絶望が突きつけられていた中での判断の底には、白蓮個人の想いも隠されていた。
 星にとっても、初めて白蓮と出会った場所であり、想い人と出会った場所であり、戦友と出会った場所。行きつけのラーメン屋も、呑んだくれた酒屋も、武を磨いた練兵場も、子供たちとの遊び場も、願いを祈った店長の店も……その場所にあるたった一つのモノ。
 ふいに走馬灯のように楽しく暮らしていた思い出が甦って来て、彼女の頬には気付かぬ内に涙が流れていた。顎に達する前にそれに気付き、そっと手を持って行き涙の雫を指に乗せ、小さく笑う。
「……ふふ、幽州すら守れぬモノが……どうして大陸を救えよう、か」
 いつか彼に話した言葉を繰り返すと、彼女の涙は幾つも自身の揃えた膝に落ちて行く。
「……っ」
 声が漏れそうになるのを口に手を当てて止めると、嗚咽だけが天幕内に響き始める。
 悔しかった。初めての主が追い詰められている事が。守り抜けないかもしれないという事が。
 哀しかった。迷い子のようにふらふらと旅をしてきた自分にとっての大切な地が奪われてしまう、穢されてしまうと思うと。
 そして彼女は初めて現実の予想として襲い来る敗北に恐怖した。自分の死は割り切れていても、大切なモノが消え去る事の恐怖には耐えられなかった。
 洛陽で一人の男が無茶をした時は激情が心を支配した。それは責める相手が他
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