彼女の家は何処か
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いい。もう我らは十分戦った。せめてあなただけでも逃げて欲しい、と。
しかし白蓮にはその時逃げるという選択が出来なかった。もう自分はこの地を死地と決めている、侵略に屈して逃げ出すような者でありたくない、最後まで幽州の公孫賛でいさせてくれ、と。
文官達は覚悟の籠った瞳に圧されて何も言えず、ただ涙を流しながら沈黙した。出立の前夜、牡丹は文官達から一括りの書簡を渡される。最後の戦に出る前に開き、己が主にあなたから渡して欲しいと言われて。
追加の兵と合流しながらゆっくりと進む袁紹軍が陣に着くまで後二日と迫った時、兵力の差が大きな事も考えて白蓮は覚悟を決めた。
全ての兵を集め、翌日の夕方に敵総大将に全兵力を以って三方向から奇襲を仕掛けると伝え、最後の戦を心置きなく過ごせるよう腹を満たせと糧食と酒の多くを兵に与える。
その夜、白蓮は星と牡丹の二人を自身の天幕に呼び、店長の店から贈られた酒を明くる日の戦に支障を来さぬ程度に飲んでいた。
小さな酒宴の席を始めてからもうすぐ二刻が経とうとしていた。
持ってきた酒も後少し。と言っても、初めから大小の二瓶程しかないので酒好きの星を交えて飲んでは酔う事もない。
「すまないな。本当は潰れるくらい呑ませてやりたいけどそうもいかないし」
「クク、酒宴というのは量があればいいというモノでは無いでしょう。それに酔って絡みだす面倒くさいあなたの相手をしなくて良いのも幸いかと」
いつもの如く私にいじわるを言う星はずっと穏やかな表情で、ここが戦場で明日決死の覚悟で奇襲を仕掛けるのが嘘のよう。
四角い小さな机で左隣に座る牡丹は杯を合わせてから沈んだ表情のまま軽く受け答えをするだけだった。
「いい加減、そんなに沈んでいてはせっかくの酒も不味くなるぞ牡丹」
星の不満げな言葉にも少しだけ目線を合わせるだけで彼女は俯く。その肩はわずかに震えていた。
突然、嗚咽を漏らし始め彼女の目からは涙が零れ出す。
「う……うぅ……私が……私がもっと、ちゃんと交渉出来てたら、こんな無茶な戦に、ならなかったのに……私が張純を止めていたら……」
ぽつぽつと語り出すのは懺悔の気持ち。牡丹はずっと悔いて自身を責めていたんだ。圧倒的に敗色が濃い戦が目の前に来て、自責の念に耐えきれなくて弱さを零してしまった。
曹操との交渉も、張純との出来事も、全て自分の責任であると、その気持ちが重く圧し掛かっていたのか。
自身を責めている様が私と被って見えてしまい、ふっと息を漏らして微笑み、彼女の頭をゆっくりと撫でつける。
「なぁ、牡丹。お前のせいじゃない。これは私のせいなんだよ。この地を治めているのは間違いなく公孫伯珪で、お前の言う事の責を背負うのは私なんだ。だからお前には背負わせてやらない」
ぼろぼろと涙がさらに零
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