彼女の家は何処か
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ようです。ふふ、その時は覚悟してくださいね」
「欲張りな奴め。ではな牡丹。武運を」
いつも通りの雰囲気で会話を行う二人であったが、星が後ろを向いてひらひらと手を振った事でそれもすぐに終わる。手を振る片手とは別に、もう一方は震えているのが分かる程に固く拳が握られ、血の雫が滴っていた。
「では白蓮様、行ってまいります」
「ああ、また後でな牡丹」
私にはもう、そんな言葉を返す事しか出来なかった。
牡丹は笑顔のまま振りむいて、自身の隊のまとめに向かっていく。
呼びかけそうになる。声が喉元から舌の上まで上がって来たが、生唾を呑み込んで無理やり言葉ごと飲み下した。
牡丹の小さな背が見えなくなってから、私は残りの部隊に対して声を上げる。
「全軍、行軍を再会せよ。振り返る事を禁ずる。我らは前だけを向いて進め」
指示を出している時も、その場から離れていく時も、私の眼からは涙が零れる事は無かった。
ぽっかりと胸に穴が開いたような感覚の中、私の頭の中では牡丹の笑顔だけがずっと映されていた。
徐州へ向けての行軍を開始した公孫賛軍は国境付近で一度だけ追撃を受ける事となった。
顔良と文醜の二人の将が現れたのだが、その意味する所を理解した公孫賛と趙雲の怒りは凄まじく、逆撃によって両将軍の部隊は多大な損害を受けて撤退していった。その報を聞いた袁紹はこれ以上の民の反感と軍の被害を恐れて追撃を中止し、幽州の掌握の為に動き始める。
心を痛めたまま徐州への歩みを進める公孫賛の軍であったが、白蓮と星の元に一人の兵が追いついてきた。
白馬義従第二師団の一人であるその兵は張コウに見逃されて一つの届け物を持っていた。
渡されたモノは白蓮の片腕である牡丹が愛用していた髪留め。それを受け取った白蓮は泣かず、ただ無言で空を見上げ、星は目を瞑り、一雫だけ涙を零した。
追撃を警戒しながら尚も軍を進めること幾日。彼女達は遂に徐州へ辿り着く事に成功する。
突如、満身創痍の軍が現れた事に驚いた関所の兵は州牧たる仁徳の君に早馬を送り、劉備は受け入れるとの返答と共に自身が付近の城まで出向いて手厚く労った。
河北での動乱は公孫賛の敗北で幕を閉じ、袁紹は河北四州の覇者となった。
幾多の人々の心に傷を残した戦であったが、未だ大陸は野心渦巻く乱世の最中。
人々は不安に駆られ、兵士は先の戦に恐怖し、為政者達はそれぞれの想いの元に思考を巡らせていく。
そんな中、一人の男は未だ彼女達の一つの結末を知らず、己が願う平穏の為にと戦い続けていた。
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