第一章
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第一章
ツンデレノムさん
この人の名を知らない野球ファンはいない。
野村克也、かつて南海ホークスにおいて四番キャッチャーとして長い間打の中軸であり守ってはキャッチャーという扇の要を務めてきた。そして後には監督まで務めこれ以上はないまでの名選手としての評価を受けていた。
この人の逸話は実に多い。とかく口が悪いだの囁きがいやらしいだのといった話がある。それは確かにその通りであり否定できるものではない。だがだ。この人にはこうした話もあったりする。
ある時だ。彼がヤクルトの監督を務めていた時に打の中軸の一角を任せていた広澤克己がどういう運命の導きなのか阪神に来た。当然ながらこの時の阪神の監督が野村だ。師弟が敵味方に別れまた師弟になったのである。こうしたことがあるから野球というものはわからない。
その広澤がだ。野村に対してだ。贈り物として空気清浄機をプレゼントした。しかしである。
野村はそれを受け取るなりだ。不機嫌そのものの顔になってだ。広澤に対してこんなことを言ったのである。
「しょうもないもん持って来おって。こんなん貰っても何も嬉しくないわ」
こう言ったのである。まさに野村であった。その憎まれ口は何時でも出る。弟子である広澤にもだ。それは遺憾なく発揮されたのである。
周囲は野村のその言葉にやれやれといった顔になった。こんな時にそんなことを言わなくてもいいのではないかと思ったのである。それは広澤にしても同じ気持ちであった。
彼は残念な顔になってだ。こう言ったのであった。
「折角贈り物にしたのにな」
野村のことはわかっていてもだ。やはり喜んで欲しかったのだ。それで悲しい気持ちになったのだ。
だが後日だ。何かの用で野村の家に行った時にである。
何とだ。野村の家の中にだ。その広澤が贈った空気清浄機があったのだ。
しかもちゃんと使われている。それを見て広澤は野村に対して言おうとした。しかしその前にであった。
野村は視線を泳がせて口ごもりながらだ。こんなことを言ったのである。
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