七幕 羽根がなくてもいいですか?
6幕
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フェイはその場にぺたんと座り込んだ。もう訳が分からない。〈外〉では正しいことと間違ったことの区別もつかない。目を閉じ耳を覆い、外界から己を隔離してしまいたい。あの頃のように、孤独だけれど冒されない静寂があった〈温室〉に帰りたい。
床に突いていた両手首を持ち上げられた。ジュードだ。立って、というジェスチャー。
「泣かないで。僕は怒ってないから」
「…っ、…っ」
髪を振り乱して首を横に振った。ジュードの顔を直視できない。直視したら、きっとジュードとてフェイを怒りたくなるに決まっている。
(わたしに優しくしてくれたジュードの、優しいジュードの、大事にしてきたモノ。わたしが、わたしが、わたしが!)
喉がジンジンして、フェイはしゃくり上げた。〈外〉に出て初めてこんなふうに泣いた。
(キラわれたらどうしよう。パパの時みたいにイラナイって言われたらどうしよう。ジュードにキラわれるなんてヤダよぅ)
「フェイの言葉もエレンピオスの真実だと思う。でも、精霊が総じて人間をキライだなんて、僕は思わない。僕は人間を愛してやまない大精霊を知ってるから」
人間を愛する精霊。フェイの常識の中になかったフレーズ。フェイはつい顔を上げていた。
「そんな精霊、いないよ」
「いるんだよ。僕が嘘ついてると思う?」
ぶんぶん。首を思いきり横に振る。
ジュードは人を騙したり嘘をついたりする人ではない。
「きっと、精霊を先に嫌ってしまったのは、僕たち人間なんだよ。遠い――遠い、昔にね」
「……昔の人たちがしたのに、今のフェイたちが引き受けなきゃいけないの?」
「うん。ちょっと理不尽だけど、変われなかった責任は、大なり小なり現在の僕らにもあると思うから。だから僕はせめて、精霊と仲直りする道具を作りたいんだ。どっちも『イタイオモイ』なんてしなくていい道具を」
「……ジュードは、精霊、スキなの?」
「うん」
琥珀色の双眸には一分の翳りもなかった。ジュードは本気で、人と精霊を結べると信じ、そのための物を造ろうとしている。その未来を創ろうとしている。
そんな真摯な想いを感じていて、個人的な嫌悪を外に出せるほど、フェイの我は強くなかった。
「フェイはやっぱり、精霊、キライ。でも、ジュードが言うなら」
フェイは力を抜いてジュードの手に身を預け、立ち上がった。
「セルシウス探すなら、フェイ、案内できる。精霊のことなら大体分かる。〈妖精〉だから」
「本当に!? ――ありがとう! フェイ」
ジュードがフェイの両手を掴んだ。
(やっぱり同じ。あの湖の底にいた人と。ジュード、もしかして――)
研究所から出ると、図ったようにユリウスがフェイとジュードの前に現れ
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