第一章
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第一章
予告ホームラン
ベーブ=ルースの名前を知らない者はまずいないだろう。
野球を知らない人であってもだ。その大柄な身体といかつい顔からは想像もできない無邪気で素朴な性格からこの仇名になった。野球界にその名を永遠に残す名選手だ。
その彼はある時深刻なスランプの中にあった。
「ルース不調」
「どうしたスター」
こうした記事が新聞に連日連夜掲載された。それがルースをさらに苛立たせていた。
「僕だって好きで不調になっているんじゃないんだ」
こうマネージャーにも漏らしていた。
「打ちたいんだよ、僕も」
「それはわかっているけれどね」
マネージャーも彼のその心はわかっていた。
「けれど焦るとね。余計に駄目だぞ」
「それもわかっているよ」
わかっていない筈がない。しかしだからこそ余計に焦る、まさに悪循環であった。
そんな彼を慰めるのは。子供達からの手紙だった。彼は子供達から圧倒的な人気を得ていた。彼と握手して二度と手を洗わないと言った子供さえいた。
そしてこの時もその手紙を読んでいた。その中の一通であった。
『僕は今病院にいます。そこでいつもラジオでルース選手の活躍を聞いています。僕はその活躍を聞いて頑張っています。ルース選手もこれからも頑張って下さい』
こう書かれていた。それを読み終えたルースは側にいたそのマネージャーに声をかけた。真剣どころではない。まるで知っていなければならなかったことを今ようやく知ったような顔になってだ。
「少し頼みたいことがあるけれど」
「何だい?急に」
「この手紙だけれど」
その病院から自分を応援しているという子供の手紙をマネージャーにも手渡した。そのうえでまた言うのであった。
「この子と会えるかな」
「ああ、住所に名前も書いてあるね」
マネージャーはその手紙の表を見て述べた。そこには確かにそういったものが書かれていた。
「これは病院だね」
「そこに行っていいかな」
「君がかい?」
「そうだよ、僕がだよ」
彼に顔を向けて告げた。
「この子とね」
「ルース、急に一体どうしたんだい」
「この子は病院から僕を応援してくれているんだ」
手紙で読んだそのことを彼に話すのだった。
「今の不調のこの僕のことをね。それで頑張れるていうから」
「是非にというのかい」
「うん、会いたいんだ」
その偽らざる本音の言葉だった。
「駄目かな、それは」
「いや、名前も住所もわかっているから」
マネージャーは彼のその切実な言葉に応えた。彼がどれだけ真剣な気持ちで言っているのかその言葉と顔でわかったからである。
「それじゃあね」
「行っていいだね」
「君はこうした子供は放っておけ
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