第二話 「宇宙の彼方にカレーパンを」
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を掛けさせたくないため、昔を懐かしむようなことは口にしなかった。アランシアたち兄弟も両親を支えようと懸命に働き、生活は苦しくとも楽しい毎日を送っていた。
そんな日常を送っていたある日、アランシアと何気ない会話をしていた母が、ポツリと思い出を洩らした。
「昔はこの星も賑やかだったよ。カレーパンで溢れててさぁ。あの宇宙に並ぶものはないとされる地球産のカレーパンだって、ここで取り扱ってたんだ」
日々の疲れからか、つい洩らしてしまったのだろう。しかし、そのたった一言で、アランシアには夢ができた。
「かぞくみんなに、ちきゅうのカレーパンをたべさせたいっ!」
彼女はその夢を叶えようと、様々な仕事を探した。しかし地球は発展途上の惑星。貧しい彼女が行く手段は無いに等しい。
そんな時、ある組織から彼女に声がかかる。
「地球産のカレーパン、見たくないかい?」
その誘いに彼女は、まんまと乗ってしまった。
組織の仕事はカレーパンの密輸。中でも地球産カレーパンの密輸は、組織の収益の三分の一を占めており、危険も伴うため、多くの構成員が使い捨てられてきた。
しかし、彼女は生き残った。才能があったのか、ロボットの扱いはメキメキと成長し、多くの密輸作戦を成功させてきた。組織の決まりで、地球産のカレーパンを得ることは許されなかったが、これからも仕事を続けていけば、特別に分けてやると言われた。
その言葉を愚直に信じて、彼女は働いてきた。
いつか家族皆で、カレーパンを食べる日を夢見て――
「……やだっ、私、何泣いてるんだろう……」
いつのまにか、彼女の瞳から涙がこぼれていた。
この戦いで自分は死ぬかもしれないという恐怖と、遠く離れた家族への思いが重なることで、涙が溢れ、頬を伝った。
今まで家族と過ごした思い出が、走馬灯のように駆け巡る。
「お父さんお母さん、兄弟の皆……迷惑かけてごめんなさい。……でも、私は負けられない。カレーパンを皆で頬張る、その日まで――」
アランシアは数個のスイッチを素早く操作し、強襲戦闘モードを起動させる。
インドラブレッドが今か今かと待ちかねるように、唸りを上げた。
「ごめんなさい、インドラ。もう少しだけ、私の我侭を聞いてください」
そして、彼女は深呼吸をすると、両手のレバーをしっかりと握る。
この手を前に突き出せば、後には戻れない。
しかし、もはや彼女の目に涙は無い。レバーを渾身の力で突き出し、彼女は叫んだ。
「私は絶対……皆にカレーパンを届けるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
その叫びに答えるように、インドラブレッドは脚部スラスターを爆音と共に点火させ、彼女の願いを阻む巨人に、突撃する。
アランシアの決死の突撃が始まった。
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