暁 〜小説投稿サイト〜
少年少女の戦極時代
第54話 脱出@ 独房から出るまで

[8]前話 [1]後書き [2]次話
 咲がベッドで枕を抱いて蹲っていると、乱暴な音と共にドアが開けられた。
 またサガラだろうかと顔を上げ、驚いた。
 ――ドアを開けたのは、紘汰と戒斗、それに光実だったから。

「みんな、何で」
「話は後だ。逃げよう、咲ちゃん」

 独房に入ってきた紘汰が咲の手を掴んだ。咲はその時、反射的に紘汰の手を振り解いていた。

「咲、ちゃん?」
「あ……ごめん、なさい。あたしのことは……ほっといて。先に行って」
「な、何言ってんだよ! 咲ちゃんを置いていけるわけねえだろ」

 両肩を掴まれたことで咲はさらに身を竦めた。紘汰も気づいたらしい。気まずげに手を外した。

「――インベスは、人間だったんでしょ? あたし、インベスを殺した。人を……殺しちゃったんだよ? もう、どこにも帰れないよっ」
「っ、それ、は――」

 咲は涙を散らす勢いで顔を上げ、紘汰の胸に縋った。

「人殺し、しちゃったんだよ!? 今まで殺したインベスも、だれかのお父さんでお母さんで、きょうだいで、コドモで、トモダチだったかもしれないんだよ!? それを殺しちゃったんだよ!? やだよ……あたし、やだよぉ……」

 縋った手がずるずると滑り落ちる。咲はベッドに両手を突いて泣いた。
 重かった。ひたすら、刈った命が重かった。


「泣いていたってどうにもならないぞ」

 冷たく言い放ったのは戒斗だった。

「戒斗、お前! 咲ちゃんは傷ついてんのに……っ」
「俺の知ったことじゃない。――どうする、小娘。ここに留まって泣き暮れるか、ここから出て現実に立ち向かうか。二つに一つだ」
「あたし、は……もう」
「二度とチームの奴らに会えなくなってもいいのか?」

 咲は、はっとした。仲間。モン太、チューやん、ナッツ、トモ――ヘキサ。彼らの笑顔が、呼ぶ声が、咲の中にリフレインする。
 ただ、それだけ。それだけの、咲にとっては世界で一番大事なもの。

「二度と踊れなくなってもいいのか!?」
「やだ!!」

 咲はソファーから立ち上がり、戒斗の手をがっちり取った。
 戒斗は咲の手を握り返し、目線の高さを合わせるようにしゃがんだ。

「それでいい。覚えておけ。いつだって最後に頼りになるのは、自分自身の強さだ」
「うん――!」

 歯を食い縛った。ここから先はもう泣かない。そんな決意を込めて。
 例え血で汚れてしまった自分でも、ヘキサは、彼らは受け入れる。
 だから咲は泣いて蹲っていないで、帰るのだ。仲間の下へ。あの野外劇場へ。

「よし、行くぞ」

 戒斗たちに付いて咲も、自分一人の足で走り出した。
[8]前話 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ