第一物語・後半-日来独立編-
第六十四章 覚醒せし宿り主《4》
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なりたいと思い、何時かは越したいとも思っていた。
そんな存在の父親から言われた、別れ際の言葉。
「父様!」
返事をしようと振り返った。だが、奏鳴の目に映ったものは光が散った後の残光だった。
そこに父親の姿は無く、何もなかった。
別れの言葉も無しに。
父親らしい去り方ではあったが、それは最後まで父親であることを示したかったものだ。
忘れない。あの時を、そしてこの時を。
「父様……」
これで皆、家族はいなくなった。悲しくて、また泣きそうになる。
風が寂しく吹いて、奏鳴の長い髪を撫でる。
当たり前の日常が家族を失い、変わって、今日まで幾日も過ぎた。長かった。ここに至るまで、沢山の苦労と苦しみを得ながら生きてきた。
そこに現れたのがセーランだ。
彼が救ってくれたから前へと進めるようになり、共に生きようと誓い合えた。
ありがとう。
皆がいてくれたから、今の自分があるのだ。
肩を震わせ、堪えようと堪えようと自分に言い聞かせている奏鳴が、一粒の涙を流した。
「大丈夫だ。この俺がいるだろ」
彼の声。
セーランの言葉が聞こえた。
●
まるで夢を見ていたかのように現実に目を向けた奏鳴。
正面にいるのはセーランだ。
青い腕。憂いの葬爪を発動している。
心配そうに奏鳴を見詰め、そのまま返事を待っていた。
一粒の涙を拭って、頷き、頬を微かに上げて返事を返した。
「ごめんなさい、迷惑掛けちゃって」
「俺がしたいからしたことだ、気にすんなって」
「セーランのお陰で家族と向かい合えた。その、皆は、ちゃんと逝けたかな」
「ちゃんと逝ったよ。最後に娘のことを頼まれたしな」
セーランは空を見上げ、大気流れる天空を見詰めた。穏やかな空を上げた顔を下ろし、正面に見える竜神と麒麟を見た。
釣られるようにして奏鳴も、セーランと同じ光景を目に映した。
竜神が麒麟に押されているも、なんとか堪えているようだった。
さすがの竜神も現実空間に実体を現すのと、過去の傷が重なってはまともに力が発揮出来無いようだ。本来の力など見る陰も無い。
「お前が生きたいって強く思っていたから、竜神はなんとか踏ん張れた。でもこのままだと、竜神は負けるぞ」
「竜神は今や私に宿っている。私が力を与えなければ竜神はまともに戦えない」
ならばどうするか。
そんなことは既に決まっている。
「だから私が借りた竜神の力を、再び竜神へと戻す。これでいける筈だ」
「確かにそうだけど、問題は力をどれだけ竜神に渡せるかだ。結局人は人だ。あまりにも無理に神の力を扱えば身体がイカれる」
「人は人でも、私は神の血を多く持った神人族だ。神に近い存在ならば、少しぐらい無理をしても平気だろう」
地を踏み、進んで来る
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