第一物語・後半-日来独立編-
第六十四章 覚醒せし宿り主《4》
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『行け。もう猶予は無いぞ』
「あの、父様。その前に一つ……」
返ってきた言葉は問い掛けるかのようなものだった。なんなのか、父親は聞くことにした。
話し始めるまでに間が空いたが、よし、と奏鳴は意気込む。
何時までもこうしてはいられない。過去を越え、今へ、未来へと進んで行かなければならない。だから父親に話しておく。
聞いておかなければ、きっと後でぐちぐち言うに違いないから。
「私の婿を、彼を認めてくださいますか」
父親はぴくりと眉を立てた。
怒りによるものではなく、急なことで驚き、顔が力んしでしまったのだ。
自分の知らない者に娘を託す。
祝福してやりたいものだが、果たしてその者に託していいのか。悩んだが、娘の照れた顔を見れば分かる。
きっといい人なのだろうと。
今までずっと心を閉ざしていた娘の心を開かせた、その者ならばきっと大丈夫だと踏ん切りを付ける。
悩んでいる暇はお互い無い。
『お前は本当にその者でいいのだな』
「はい。傷付けても、私を想ってくれて、救ってくれて。そんな彼を愛していきたいです」
『ならば許そう。娘の晴れ姿を見れないとは悲しいものだな。だがまあ、幸せになってくれるならば嬉しいものでもあるがな』
名残惜しそうに父親は手が届く距離まで近付き、娘の左肩に手を置いた。
重く、のし掛かれたようだ。
別れ際の最後の言葉。
理解している奏鳴は父親の言葉を、しっかりと脳に焼き付けた。
『竜の如く荒々しく、されど可憐であれ。
この言葉は強くあっても、誰かを頼り頼られる存在であるようにと意味が込められた言葉だ。忘れるな』
「はい、父様」
肩が急に軽くなった。
父親の手が離れ、手の重みが無くなったのだ。
何故、最後にその言葉を言ったのか。それはきっと、もう一人で抱え込むなと父親が娘に伝えたかったのだ。
素直に口に出来無いから、あえてまどろっこしい言い方でしか話せない。
最後くらいは素直に言えると思ったのに、結局は言えなかった。
それでいいのか。いや、言い訳がない。
このまま消えてしまっては、未練が残ってしまうに違いない。それでまだこの世にいたのでは父としての威厳が無い。
付け加えるが、これが最後なのだ。
別れ際。
通り過ぎる形で、父親は奏鳴にだけ聞こえる声で呟いた。
『立派になったな』
父親の言葉を聞いた。それも自分を認めたかのような言葉だ。
初めて言われた。
今まではこちらを試すかのような言葉が多かった。一人前にするために、あえて厳しく接してくれたのだ。
時折見せる優しさが強く印象に残る程に、愛し、厳しく育ててくれた。
とても怖くて、同じくらいに誇れる父親だった。
あんな風に強く
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