第一物語・後半-日来独立編-
第六十四章 覚醒せし宿り主《4》
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
『もう過ぎたことだ。それにな、幾ら後悔してもその先へと進まなければ、その後悔はなんの意味も持たない。ただ無駄に時間を費やし苦しんだだけだ。
お前は何がしたい。後悔をし、それで何をする気だ』
後悔とは面倒なものだ。
他人から見れば大したことのないものであっても、当の本人からすれば相当のことなのだ。それゆえに後悔は他人には理解されにくく、親しい者であってもそれは変わらない。
むしろ親しければ親しい程、心配を掛けたくないものだから、逆に親しい者の前では後悔を見せないかもしれない。ただ過ぎたことを憂い、悩むだけでは本人にとってよくない。
強い者は後悔との向き合い方が、根本的に弱い者と違う。
弱い者は後悔をひたすら後悔するだけで、自暴自棄に入るのが落ちだ。しかし強い者は後悔を一種の成長材料と捉え、後悔からなんらかのことを学んでいく。
何故こうなってしまったのか、こうなる前にしとくべきことはなんだったのかと。思考を働かせ、考え、既に起こった事態とは違う結末を考える。
奏鳴にはそこが足りなかった。
後悔を後悔し続けたままで、そこから何も学ぼうとはしなかった。
如何に辛い後悔であろうとも、学ぶ気が無いということは事実を受け入れないということだ。
「それは後悔から何かを始めろということですか?」
『ああ。お前は今、家族を殺した後悔を前に立ち止まっている。罪悪感を強く抱き、償いを続けてきた。これからもそんな人生を歩んでいくのか』
「いいえ、私は、幸せになるために歩んで行きたいです」
『ならばもう過去に執着するな。過去を受け入れ、前へと進んで行け。委伊達家の者ならば堂々としていろ、小者のように縮こまるな』
胸を打ちつける言葉。
父親の一言一言が心に響き、偉大さを心身共に感じさせた。
目の前にいる者は委伊達家前当主だった者。
昔の存在だが決して色あせることのない存在感を放ち、空気を圧すかのような言葉は力が込もっていた。
力んでいるのか、そう話しているのかは本人にしか分からない。だが、彼の言葉は奏鳴にしっかりと届いてはいた。
「しかし、私は父様や母様達を……」
『関係無い、全く関係無い。奏鳴には委伊達家唯一の生き残りとして辰ノ大花の者達を導く使命がある。先導すべし者が弱々しくては誰も付いては来ない』
「出来るでしょうか。父様のように私は強くありません。皆に迷惑を掛けてばかりで、何もしてあげられていません」
『なら今やらなくてどうする』
今やるべきこと。それは央信を倒し、生き残ること。
それをやれということだ。
強くあるために、過去を越えていく。
解っているが、単純な力比べだ。どうにか出来るものなのかと奏鳴は思う。
父親は頷き、娘の背を押す言葉を掛けた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ