第一物語・後半-日来独立編-
第六十四章 覚醒せし宿り主《4》
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最後まで自分のために。消えるその一瞬でさえも将来を願ってくれた。
なのに自分はどうだろう。罪を感じ、それを恥じていただけだった。そんな時では無いのに、自分のことばかり。
伝えるべきことがもっとあるのに、何故そんな自分のことを言ってしまったのか。
何時もこうだ。肝心な時に何も出来無い。
昔も今も、もしかしたらこれからも。
央信に勝たなければいけない今でさえ、やるべきことは出来てはいない。
無理なのか。
諦めかける程に無力な自分が奏鳴は嫌で、刃が下がった政宗を強く握る。
流れ落ちる涙は止まらず、甲板へと落ち、染みて広がった。幾度も涙が落ち、必至で声を堪えているが度々漏れ出す。
きっと何度謝ろうとも晴れることのない後悔の念は、強く奏鳴に引っ付いて離れようとはしないだろう。
涙で頬を濡らし、拭い、また溢れ出た涙が肌を伝う。
この世に残っている家族は、後ただ一人。
奏鳴の父親だ。
前委伊達家当主たる風格がにじみ出て、見ているだけで相当の実力者であることが伺える。
父親と娘。
距離はそう離れてなく、ふう、と父親は息を吐いた後に奏鳴へと近寄った。そして少しの距離を置いて立ち止まる。
厳格な父親であった彼が、久し振りに娘と再会したのだ。幾ら厳格と言われようとも、その時は優しくなれるような気がした。
『前を向け、委伊達・奏鳴!』
深い、重みのある声。
渇を入れられたように奏鳴は涙を拭うのも忘れ、反射的に正面を向いた。
父親がいた。
鋭い眼差しは昔と変わらず、刺々しい髭もそのままだ。
への字に似た口を動かし、どう話せばよいかなど考えつつも勢いに任せて娘に話し掛けた。
『何をそんなにも泣いている』
本人も言い方が強過ぎると思うも、昔からこんな話し方なのだから仕方無いと割り切った。
物怖じしたように、縮こまる奏鳴は呟くように言った。
「自分が、何故こんなにも弱いのかと、そう思ったら涙が出てきて」
『そうか。確かに弱いな』
否定はしない。
事実、そうなのだから変な励ましは無用だ。
『だがな奏鳴よ。弱いということは悪いことなどではない。弱いからこそ集い、協力し合う。強ければ自分一人で全てをこなしてしまい、仲間など必要としなくなる』
「ですが父様、私は弱かったから竜神の力を抑えきれずに――」
『だからなんだと言うのだ』
遮るように父親は言った。
その先を言わせないかのようで、奏鳴が口に出したかったものを出させなかった。
意図して行った。
口から吐き出すということは事実を自分優勢に考え、正当化する可能性があるからだ。それでは現実から目を逸らしているのとなんら変わらない。
代わりとして、こちらの言葉を聞かせる。
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