第一物語・後半-日来独立編-
第六十四章 覚醒せし宿り主《4》
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さは強過ぎた。
『そうよね、違うわよね。なら、これからは幸せに生きなきゃ駄目でしょ。苦しみを得た先に幸せを得るならば何も言わないけど、苦しみを得てなおも苦しむのなら、それは違うと思うの。
奏鳴、確かに貴方が命を奪ったことは事実として存在するわ。けれどその事実と向き合い、越えていくの。過去を胸に秘めて、未来へと進んで行くのよ』
「ごめんさない……本当に、ごめんなさい」
『よしよし、今はたっぷりお泣き。外の世界に産まれ出て、怖さゆえに泣いていた日々からずっと見てきたわ。もう懐かしき記憶となってしまったけれど、だからか子が成長していくのを感じるの』
最後の時だ。
我が子に告げる母の想い。
刹那に消え行く言葉を紡ぎ、忘れないようにと記憶に刻み付ける。
覚えておいてほしい。
『忘れないで、奏鳴は独りじゃない。頼れる仲間も寄り添える者もいる。その人達が周りにいるうちは、決してこちらには来ては駄目。辛い日々も、過ぎてしまえばなんてことはないのよ』
「母様……!? 母様!」
薄れていく、母の身体が。
離れていってしまうのが嫌だから、親を困らせる子のように泣いて母親の身体にしがみ付く。
それを母親は目尻に涙を浮かべながら、溢れる想いを必至に堪えて笑い続けた。
抱くことはしない。
親離れ。いや、言うならばこの場合は家族離れか。
子を駄目にしないために下した、母親の厳しさだ。酷いと思われてもいい。ただ娘をこちら側に来させないための行動。
「嫌だ、行かないで母様! ずっと側にいて下さい、私を、置いてかないで……。嫌……もう一人で食事をするのも、誰もいない屋敷で眠るのも、独り苦しむのも。お願い、お願いだから!」
『ごめんね。まだ奏鳴を連れて行くわけにはいかないの。これから奏鳴には沢山の幸せが待ってる。母さんそれを思うと、辛いけど別れを言わなきゃ』
ああ、可愛い我が子よ。
許して。
貴方には生きていてもらいたい。
何時の時も別れは辛いけれど、別れ無しに出会いも来ない。
この別れを得て、再び出会えるのなら……また貴方に出会えるのならば――。
『別れないといけないの。きっと、また会えるから。家族が集う正しき場所で……会えるから』
その時まで、辛いけれど別れを告げよう。
『ああ、貴方の顔を見れないと思うと悲しいわ。願うならば、また家族六人と八頭君に、奏鳴の彼氏の幣君を加えて食を囲みたいわ。けどもう時間が無いのよね。お別れよ』
「ああ……ああ……」
『産まれてきてくれてありがとう。どうか幸せに……』
奏鳴の手が、母親の身体を捕らえられなかった時。一瞬の風と共に母親は光となり、吹かれた。
その腕には誰も抱かれてはおらず、空洞となっている。
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