第三章
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第三章
「八回、何度も何度も出て来て見せてくれる。そんな人にはなれんよ」
こう言ってベンチから消えるのだった。彼は西本を見ていたのだ。既にユニフォームを脱いで解説者になっている彼をまだ見ていたのだ。
その彼が実績を買われて阪神の監督になると。西本はその彼のところに来て戦力分析や抱負等について尋ねてきたのであった。
「どうや、阪神は」
「おいおい、ノムさんにそんなこと聞いても」
「けんにほろろだってのに」
「そうだよ」
記者達は阪神のユニフォームを着た野村に近付く彼を見て言った。
「あの嫌味な言葉でぶしつけに返されて終わりだよ」
「阪神OBもそれで全滅だってのに」
「部外者の西本さんが聞いてもな」
西本は阪神に関わったkとおがない。だがら野村は何も言わないと思っていたのである。ところがであった。野村は謙虚な態度でこう西本に言ったのだ。
「私は阪神について何も知りません」
まずはこう言ったのである。
「ですから何でも教えて欲しいです」
「えっ!?」
「ノムさんがか」
「あんなこと言うのか」
記者達は野村のその言葉にまず驚きを隠せなかった。
「しかも謙虚に」
「何がどうなってるんだ?一体」
「夢を見てるのか!?」
しかしそれは夢ではなかった。彼はさらに言った。
「西本さん、御願いします」
その態度も言葉も嫌味なものではなかった。野村は嫌味は露骨に出す男だ。しかし西本に対してはそれを一切見せないのである。
「阪神のことを何でも教えて頂ければと思っています:
「そうか」
西本はその野村の言葉を温厚な笑みで受けたのだった。
「だったらわしもできるだけ言うからな」
「はい、そうして下さい」
最後にこう言って一礼するのだった。その野村の目には深い尊敬のものがあった。
野村は西本の言葉を真面目に受け続けた。しかし阪神の成績は思うようなものではなく最後はスキャンダルの責任を取って辞任させられた。誰もが野村はこれで終わりだと思った。
しかし西本は違った。誰も見向きもしなくなり一人寂しく街を歩く野村の前に現われた。そしてその温厚な笑みを浮かべて言ってきたのである。
「鱧、どや?」
「鱧ですか」
「美味い店知ってるで」
こう言って誘うのだった。野村も寂しさはそのままだがにこりと笑って。頷くのだった。
「じゃあ御願いします」
「いこか」
こうして二人で鱧を食べに店に入った。その店の奥座敷で二人向かい合って座りそのうえで鱧を食べていく。酒は駄目な二人は鱧の味を純粋に楽しんでいた。
その鱧を食べながら西本は。野村に静かに言ってきたのだった。
「また機会があるわ」
「機会がですか」
「人間辛い時もあれば苦しい時もある」
戦争を生き抜き弱小球団だった阪急や近鉄を何度
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