食事会は和やかであるべきだと思います。
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ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ美味しい昼食をご馳走様でした――あの」
見送るためにいそいそと玄関に向かう俺を山口先生が呼び止める。
「もし、ご迷惑じゃなかったら、二人の打つところを見学していっても良いですか?」
「え……」
「実は私も囲碁というのを始めてみようかと思っていまして。 興味があるんですよ」
美鶴の眉がピクリと動き、目付きが剣呑になった。
言いたいことは分かったけど怖いからやめてくれ……。
「うーん……俺と先生の対局を見ても良く分からないと思いますし、暇になっちゃうと思いますよ」
「駄目、ですか?」
「済みませんが……負けるところ見られたくなくて。 囲碁なら今度教えますよ」
職場に碁を分かる人が居ないし、一番親しくしている山口先生が興味を持ってくれたことは嬉しいが、美鶴との対局は数時間に及ぶ可能性もあるし、山口先生が居たんじゃ集中できない。
一度集中しちゃうと、きっと山口先生の存在忘れ去っちゃうだろうからな……。
山口先生のことは好きだし、感謝してるし、申し訳ないと思うが、碁を打つ時は他の事を考えたくないのだ。
俺が引かないことを察したのか、山口先生は「仕方ないですね」と笑って帰り支度を始めた。
玄関のドアを開けて三人でアパートの廊下に出た。
「それでは、着替えは月曜日に帰しますから」
「ありがとうございます。 この服もその時お返ししますね」
「ええ――わざわざ洗濯していただかなくても構わないんですけれどね」
「そんなわけにはいきませんよ。 それじゃあ、お気をつけて」
「はい。 香坂先生も突然ご一緒してしまって済みませんでしたね」
「いえ」
車に乗って走り去っていく山口先生を見送り二人で家に戻った途端、美鶴が頭を軽く抑えて「ふぅ」とため息を付いた。
何となく苛立ちを含んでいるような気がして美鶴の顔色を窺う。
「えーと……こっちの事情に付き合わせちゃってごめんな? 約束の時間にも遅れたし――」
「いや、別にそれは構わないが――椎名」
「ん?」
美鶴は俺の目を射抜くように見据え、眉を顰めて強い口調で言った。
「あの山口とか言う男とは、縁を切ったほうが良い」
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