焦がれる夏
参拾四 瞬間、心重ねて
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えてる。)
琢磨の顔には、いつの間にか笑顔。
少年のような、屈託のない笑顔。
(なんか、どんどん野球が上手くなってる気がする。これまでの努力、苦しい事、辛い事、それ全部が今、形になってるような気がする。)
琢磨は思い出した。
ずっと前に忘れてしまったようにも思える、懐かしい感覚を。
(……楽しい!こいつと勝負するの、めちゃくちゃ面白え!野球、超楽しい!)
ふぅと息を吐き出し、琢磨は顔を引き締めて真司を睨みつける。
(……だから、こんな所で終わらせねぇッ!!)
(1-2、追い込んだ……)
真司はマウンド上で空を見上げた。
カンカン照りの、夏の太陽が自分を見下ろしていた。
(父さん、母さん、こんなに、僕の事を応援してくれる人が居る。僕に期待してくれる人が居る。僕を大切に思ってくれる人が居る。僕は幸せだよ。)
心の中で呟き、視線を落としてホームベース方向を見る。薫が、マスク越しにも分かる穏やかな顔でミットを構えていた。
真司の表情から、フッと力が抜ける。
気迫に満ちた形相から、穏やかな、どこか笑みにも見える表情へと変わった。
(碇真司は、“幸せだった”)
真司はセットポジションに入り、足を上げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「碇ィーー!頑張れー!」
日向が祈った。
自分に夢を見せてくれた少年の為に。
「ねじ伏せろ!碇!」
剣崎が祈った。
自分にきっかけを与えてくれた少年の為に。
「いてまえー!センセー!」
藤次が祈った。
自分を成長させてくれた少年の為に。
「打たせろ!碇!」
健介が祈った。
自分に自信を与えてくれた少年の為に。
(碇君……)
玲が祈った。
自分に不器用な好意をくれた少年の為に。
ーーーーーーーーーーーーーーー
真司の細身の体全体がしなり、右腕が強く振られる。足下からねじり上げられたその力が指先に解放される。白球は美しいバックスピンを伴って、薫のミットに飛び込んでいった。
琢磨のバットがインサイドアウトの軌道で、一切の波を打たず滑らかに振り出される。
白球はそのバットの上をすり抜けて、ミットの皮を強く叩いた。
パァーーーーーン!
甲高い捕球音が響いた。
薫は捕球した姿勢のまま、その衝撃に痺れる。
真司は薄れゆく意識の中で、両手を挙げて走ってくる皆の姿を見た。
玲は一体どんな顔をしているだろうか?
真司は想像した。
多分、無表情の中に少しだけ、何かの感情を滲ませてるんだろうな。
右から左から、強い衝撃を受ける。
体を強く抱きしめられる感触があった。
大き
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