暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
参拾四 瞬間、心重ねて
[4/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
したぞ。)

冬月がサインを送る。脇坂は自信満々に頷いた。

真司がセットポジションから、体を捻る。
その瞬間脇坂はスタートを切った。
前の回まで一塁ベースコーチをしていたので、一塁からのフォームの見え方、その癖も全て頭に入っている。顎を引き、頭を低い位置に保ったままでぐんぐん二塁に加速していく。

バシッ!
「ストライク!」

打席の9番・熊野が意図的に真っ直ぐを空振りする。捕手の薫が中腰の姿勢から一歩ステップを踏んで二塁へ送る。

バシッ!

しかしその薫の二塁送球を、マウンドの真司が捕球してしまった。真司が送球をカットしたのと殆ど同時に、脇坂は二塁ベースに滑り込んでいた。

(…完全にフォームを盗まれたね)

薫は唇を噛む。
球威を増す為に捻りを加えた真司のフォームはモーションが大きく、盗塁に対してはほぼ無警戒であった。
同点のランナーが二塁に進む。



<是礼学館高校選手の交代をお知らせいたします。9番・熊野君に代わりまして、北上君。バッターは、北上君。>

更に是礼はワンストライクから代打を送る。非力な9番打者の熊野に代えて、2年生の北上。クリーンアップ並みに大きな体をした強打の右打者だ。
一点ビハインドな以上、なりふり構ってはいられない。ベンチに居る選手全員の力で、マウンド上に君臨する真司に立ち向かう。

(俺の高校野球、繋いで繋いで人に任せる、これにかけてきたからな)

盗塁のアシストの空振りの為だけにこの打席に向かった熊野は、下級生に後を託してベンチに退く。

(打ってくれ北上!)



(筑摩さんが"打った球はカットボール気味だった"と言ってたな。ここにきて球種が増えたのか?ま、7回までは技巧派の投球だったんだから変化球を元々投げられない訳ではなかろうが…)

カウント0-1と、打者にとって最も有利な初球を捨てた状態で打席に向かった北上が真司を睨む。
1年生の加藤に負けてはいられない。北上も結果が欲しい。

真司の北上に対する初球は、相も変わらず全力投球で投げ込まれる真っ直ぐ。
北上は振っていった。
一塁線を打球は駆け抜ける。

(体捻る分、球の出所は見にくいが、しかし十分打てる球だ。俺は真っ直ぐに強いからな。)

真司は遊び球無しの勝負を挑む。
次の球も外真ん中の真っ直ぐ。

(真っ直ぐだ!)

北上は鋭く反応し、ボールを叩いた。

カン!

短い音が響き、右方向に速い打球が飛ぶ。
その打球の行く先には、セカンドの健介。

(やばっ!)

健介は両膝をつき、股の間にグラブを構えて顎を引いた。そうしてできた「壁」にワンバウンドで北上の打球が突き刺さった。

「!」
「前!前!」

健介の腹筋に白球が跳ね返
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ