焦がれる夏
参拾四 瞬間、心重ねて
[3/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
た加藤コールに変わる。魚住ら応援リーダーが拳を振り上げて応援団を鼓舞する。
「加藤ー!打たなかったら殺すぞォー!死んでも打てェーッ!」
応援席で踊りながらそう叫んだのは同じ1年生の島木。1年生のベンチ外部員とはいえ、その目つきは本気で勝利を目指している。
小柄な加藤が右打席で構える。
3年生にも負けないような殺気のオーラをその身にまとい、真司を睨みつける。
(ここで打てなかったら、俺は一体何の為に居るのかわかんねぇ!俺の代わりにベンチ外れた先輩も居るんだ、ここで打てねぇなら死んだ方がマシだ!)
加藤に負けじと、マウンド上の真司も、疲弊しきった顔に目だけが爛々と輝く凄まじい形相を崩さない。
相手が誰であろうと、力一杯に腕を振る。
ブンッ!
「ストライク!」
快速球がコースに決まり、加藤はフルスイングするがその軌道を捉える事ができない。
(やっぱり速えな…)
二球目も果敢に振っていく。
が、またもや空振り。
二球であっさりと追い込まれてしまった。
加藤は打席を外して、少し間をとる。
(打てねえか…?)
空振り二つで芽生えた不安を、加藤は無理矢理に打ち消す。
(打てる打てねえじゃない、打つんだよ!)
加藤は再び打席に戻ると、普段よりベースよりの位置に構えた。インコースのボール球は全てデッドボールになるほどの位置だ。
(この体にぶつけてでも塁に出てやる!死ぬ気でやりゃあ、怖いもんなんてねぇっ!)
三球目もストライクゾーンにボールが勢い良く飛び込んでくる。そのボールは手元でスッと変化した。
加藤は思い切り踏み込んでそのボールに食らいついた。少しの変化でバットの芯は外れたが、がむしゃらに振り抜いたスイングがボールを叩く。
キン!
真司の足下を打球は抜ける。内野の黒土を転々と転がり、横っ飛びするショートの青葉のグラブの先をかすめてセンター前に転がっていった。
「おらぁあああああ」
加藤は声を上げながら一塁に走る。
その目には涙が浮かんでいた。
踏みしめた一塁ベースに拳を突き立て、二度、三度と吠えた。
一死から同点のランナーが出た。
<是礼学館高校、選手の交代をお知らせ致します。先ほど代打致しました加藤君に代わりまして、脇坂君。代走、脇坂君。>
すかさず是礼ベンチから代走が飛び出していき、執念の一打で塁に出た加藤と交代する。
加藤は帰ってきた自軍ベンチで、上級生から頭を叩かれ手荒い祝福を受ける。
(よく打ったぜ。後は俺に任せとけ。)
代走した脇坂の50m走は5秒9。足だけなら琢磨よりも速い。春以降、出場機会は殆ど代走に限られてきたまさにスペシャリストだ。
(ここで決めるのが貴様の役目だ。加藤は役割を果た
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ