焦がれる夏
参拾四 瞬間、心重ねて
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ト筑摩くん>
左打席にこの回の先頭、7番の筑摩が入る。
この試合はここまでノーヒット。
タイミングは合っていないが、しかし冬月はこの3年生に代打を出さない。
(何とかして出ねぇといけねぇ。1人、1人塁に出れば、琢磨に回るんだ。今のあいつなら、何とかしてくれる。絶対琢磨まで回す。)
筑摩は左打席から正面に見える三塁側ベンチを見る。琢磨は防具と手袋をはめ、ヘルメットを被って打席に向かう準備をしている。
自分まで打順が回ると確信しているようだ。
その目は執念に爛々と輝いている。
真司は相変わらずの真っ向勝負。
捻りを加えたフォームから、全身をしならせて投げ込んでくる。
鬼気迫るものが、打席からでもビンビン伝わってくる投球である。
キン!
筑摩は初球の真っ直ぐをファールにした。
そしてバックスクリーン上のスコアボードを見て手応えを覚えた。
(139キロ…相当伸びてきてはいるけど、当たらないほどの球じゃ無くなってきたな。)
クリーンアップを相手にした先ほどの回から、その球速はガクッと落ちていた。
力を使い切ったのだろうか。
これなら打てる。筑摩は確信した。
(この速い球だけなんだ。消極的に球を待っていたらダメだ!打てると思えばいくしかない!)
2球目も、真司の指から放たれたボールはストライクゾーンに鋭く飛び込んでくる。
筑摩はこの球にも手を出していく。
そのボールは、手元でスッと、心持ち曲がった。
カーン!
筑摩はバットをしっかり合わせてジャストミート。
バシィッ!
「アウトォ!」
逆方向への鋭いライナーは、サードの敬太の真正面。ガッチリ敬太が掴んで、球場に大歓声が満ちる。
(……くそっ!曲がったのに合わせて当てにいっちまった!…振り切れなかった!)
バットを振り切ったそのままの姿勢で筑摩はガクッと肩を落とした。
是礼は先頭打者が倒れる。
ワンアウト。
<是礼学館高校、選手の交代をお知らせ致します。8番、長良君に代わりまして、加藤君。バッターは、加藤君。>
続いて8番の打順、正捕手の長良に代えて1年生の加藤が送られた。控え投手としてのベンチ入りだが、野球センスは抜群である。前日の準決勝では3回で降板したが、打撃ではヒットを放っていた。1年生ながら、一点ビハインドの土壇場の打席を任される。
「加藤ー!!」
「打ってくれ!頼む!」
ベンチでは上級生達が身を乗り出して叫んでいた。最上は既に目を真っ赤にして、涙を浮かべながら声援を送っている。
「「「加藤!加藤!加藤!
ゴーゴーゴー!
加藤!加藤!加藤!」」」
応援席では、「サウスポー」の合いの手が自然発生し
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