第一章
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「手強いで。あれは」
「何や?西本さんはわしにお金でも借りたいんか」
野村は西本が自分を褒めているということを聞いて笑って言った。
「わしはお金は貸すことはせんで。それはな」
「西本さんってそういう人ですか?」
「他の人からお金借りたいします?」
「いや、それは」
そう言われるとだった。野村もこう返した。
「ないな。あの人はそういう人やない」
「それにお世辞も言いませんよね」
「そうしたことも」
「そやな。そやったら」
ここでわかったのだった。実は最初からわかっていたのだが。
「ほんまにそう思ってるんやな、あの人は」
「見ている人は見ているってことですかね」
「西本さんは」
「わしみたいなモン見ても何もないで」
それでもこうした言葉を出すのが野村だった。
「まあ西本さんはお姉ちゃん見るような人でもあらへんけれどな。けれどわしなんか見てほんまに何考えてるんやろな、あの人も」
また自嘲めかして言うのだった。その西本とは何度も戦った。しかしお互いに何かを話す機会は少なかった。敵味方に分かれていたことが大きかった。
やがて西本は阪急から近鉄に移った。この時野村はぽつりと言った。
「阪急がもう一つできるわ」
当時阪急はパリーグの強豪球団だった。その強豪がもう一つできるというのだ。
「近鉄は変わるで。これでな」
「阪急みたいにですか」
「変わるんですね」
「西本さんは本物や」
またぽつりと言ったのだ。
「あの人で変わらんことはあらへん。近鉄はつようなんで」
その言葉通り近鉄は次第に、確実に強くなってきていた。結果はまだ満足には出ていないがそれでも強くなってきていたのは間違いなかった。
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