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純粋な絆
第五章
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ッテリーじゃ」
 秋山はまたこのことを言う。
「御前に受けてもらわなわしは投げられんのじゃ」
 そうして実際に彼は土井のトレードの話をなかったことにしてくれるようフロントに直談判した。それにより土井は大洋に残り二人のバッテリーは続いた。
 秋山は昭和四十二年で引退した。その翌年土井も引退した。二人の花道は巨人の如き偽者の人気だけはある球団のスター選手のそれとは違い実に静かなものであった。
 しかし彼等は高校から引退までバッテリーであり続けた。その絆はずっと続いたのだ。
「今まで有り難うな」
「今までじゃないだろ?」
 土井も引退したその年の暮れに二人は居酒屋で飲んでいた。土井はそこで礼を言ってきた秋山に対して笑って言ったのである。
「俺達は引退はしたけれどな」
「ああ」
「それでもバッテリーだろ?」
 こう彼に言うのであった。
「これからもずっとな」
「そうか。野球だけじゃなくてか」
「そうだよ。ずっと一緒だったんだ」 
 秋山のその顔を見ての言葉である。
「だからこれからもずっとな」
「バッテリーか。そうだな」
「ああ。だからこれからもな」
 土井は微笑んで秋山に告げた。
「御前のボール、受けさせてもらうからな」
「じゃあ俺も投げさせてもらうな」
 秋山もまた微笑んで土井に告げた。
「ずっとな」
「俺達が生きている限りな」
 これが二人の絆であった。我が国のプロ野球の歴史は長いはここまで強い絆を持ったバッテリーはいなかった。今後も出ないのかも知れない。少なくともここに書き留め少しでも多くの野球を愛する人達にこの絆のことを知ってもらいたいと思いながら筆を置くことにする。今はもう泉下の人となってしまった秋山登ことを思いながら。


純粋な絆   完


                 2009・6・30

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