第四章
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「では頼むよ」
「ああ、これはいい詞ですね」
その作詞の原稿を見てだ、編集者は明るい声を挙げた。
「先生の作品の中でも一番いいですよ」
「ははは、それはお世辞じゃないかい?」
「お世辞じゃないです、彼等と共に」
今も行く所来る所で歓待を受けているヒトラー=ユーゲント達と共にだというのだ。
「残る作品ですよ」
「そうなればいいね」
「はい、絶対にそうなります」
編集者は確信を以て北原に答えた。まだナチスが力があった頃の話だ。
第二次世界大戦が終わり相当経った、ある動画サイトでだ。
ある青年が北原白秋の作品を拝見してだ、共に観ていた友人に言った。
「こんな作品あったんだな」
「あっ、知らなかったんだな」
「ああ、北原白秋のナチスを讃える歌か」
青年はパソコンの動画を観ながら考える顔で述べるのだった。
「白秋はファシストだったんだな」
「いや、ファシズムっていうかナチスはな」
「ナチスは?」
「この頃は別に悪じゃなかったんだよ」
友人はこう青年に言うのだった。
「というか正義とさえ思われていたんだよ」
「そうだったのか」
「ハーケンクロイツだってそうだよ」
今や絶対の悪の象徴とされているそれもだというのだ。
「あれだってな」
「そうだったんだな」
「そうだよ、そもそも善悪なんてころころ変わるだろ」
「ああ」
時代だけでなく立場やそれぞれの関係でだ、善悪なぞすぐに変わる。それこそ百人いれば百人の正義が存在している。青年もそのことはわかっている。それで友人の言葉にも素直に頷くことが出来たのである。
「それはな」
「だろ?だったらな」
「白秋もか」
「ナチスを支持していてもな」
「問題じゃなかったんだな」
「むしろこの歌がな」
北原がヒトラー=ユーゲントを讃える歌がなかったことにされていることがだというのだ。青年にしろ今はじめて知った程だ。
「黒歴史になっている方がな」
「問題か」
「ありのまま全部出してもいいだろう」
「それもそうだな、俺も今はじめて聴いた歌だしな」
「だろ?善悪なんてすぐに変わってナチスがやったことは問題にしてもな」
「そうしたことを隠す方がか」
「問題だと思うんだがな」
友人はこう青年に語った。その北原白秋がヒトラー=ユーゲンントを今では誰もがなかったことにして消え去ってしまっている歌を聴きながら。
万歳ヒトラー=ユーゲント 完
2014・2・1
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