暁 〜小説投稿サイト〜
碁神
料理は結構楽しいです。
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と当時の美鶴は嗤った。
物心が付く前から碁石を握っていた自分。 同年代どころか、プロですら自分に勝てない者がいるくらいだ。
一時期求めて止まなかった好敵手(ライバル)のこともとっくに諦めた。
自分より強い棋士はたくさんいるが、同年代には絶対にいない。
それが同年代のライバルを求めた美鶴の結論だった。

そもそも、美鶴と同じくらい強い子どもがいたとしたら、ネットだけでなく現実の方でも評判になるはずだった。 独学で到達できる領域では無いのだから、必ずプロの師匠がいるはず。
だから、そんな子どもがいるなどありえないのだ。

しかし、その子どものユーザー自体は確かに存在しているらしく、それならば実際に打ちコテンパンに負かしてやろうと思って、親しくしていた父の一番弟子である南條にPCを借りた。
初めてのネット碁であったが使い方はそう難しく無く、ネット碁というのもなかなか面白いかもしれない、なんてことを考えながら例の子どもを探し、見つけた。
散々聞かされたユーザーネームだったため、すぐに分かった。
さっさと終わらせてしまおうと、美鶴は特に気負うことも無く対局申し込みボタンを押し、そして――

――負けた。

プロが子どもの振りをしている、という風には考えなかった。
確かにその打ち方には子ども特有の甘さがあったのだ。 父の指導で自分には殆ど見られなくなったその甘さのお陰で、勝負は半目差、ほぼ互角という形で終わったが、どう足掻いても半目の差が覆せなかった。

読みの深さ、あらゆる状況に対応できる重厚な守り、正確な目算による緻密な攻め。
そして、その流れるような一手の美しさ。 初春の大河を思わせる、穏やかに見えて激しいその一手一手に美鶴は魅せられ、飲まれた。

その子どもがSi-Na、椎名だ。

その日から美鶴は毎日のように再戦を求め、椎名は快く応じた。
椎名もまた美鶴を他のユーザーより特別扱いしていたからだ。
その事が嬉しくて堪らず、美鶴は椎名の期待を裏切らぬようより熱心に練習に励むようになった。
子ども特有の甘さは年齢と共に消えていくだろう。
そうなったら美鶴は椎名に敵わなくなり、その他大勢の打ち手に成り下がる。
それだけは嫌だった。

椎名と共にプロになりたかったが、椎名にその気がなかったので待たずにプロ試験を受験し、椎名には経験できないあらゆる経験を積んだ。
美鶴は椎名に勝つために血の滲むような努力をしたのだ。
しかし、勝てない。
実力が引き離されることは無かったものの、どうしてもあと一歩が足りない。
美鶴にとって椎名は憧れであり、唯一の好敵手であり、強大な壁であった。

いつしか美鶴はタイトルホルダーになっていた。
友人はいなかったが、家族も父の弟子達も祝福してくれた。
美鶴も嬉しかったが
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