第3部:学祭2日目
第12話『変転』
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ラッシュアワーの時刻は過ぎており、今はスーツの男女がまばらに乗り降りしている。
駆け足で唯と誠、それに心、世界、刹那は、この大きな駅に来てしまっていた。
あたりを見回すと、ちょうどプラットホームに続く階段から、澪と言葉がかけ下りていくところだった。
「言葉……それに、秋山さんまで……」
手を振ると、向こうもそちらに気づき、よりかけ足を早くして合流する。
5人の目の前で、澪と言葉は、その姿を見せることになった。
「その顔……」
澪の顔には、誰かに殴られたかのような青いあざが、ところどころにある。
「秋山さん……」心は言葉から、すでに澪のことを聞いている。「大丈夫?」
「……気にしなくていい……」澪は空笑いをして、「一つ、言っていいか」
と、申し訳なさげな誠と、彼の腕にきつく抱きつく唯の目を見据える。
「いい加減、桂か唯かはっきりさせてほしい……と言いたいところだった……」
低い口調の澪の声。
「はあ……」
「でも今回は……桂を選んでくれないか?」
「え?」
「澪ちゃんっ!!」唯が不満げに、誠の前に出た。「そりゃあ、桂さんが狙われたことは心配だったけど……それとこれとは別だよ!!」
「唯……。榊野の生徒達に、私もぼこぼこにされてな。桂をかばってた、それだけの理由で」澪は 諭すような口調。
やがて、重々しく口を開き始めた。
「私はもう、桂から手を引くから。」
「え…………!!」
一同は、ひやりとなった。
しばしの間、電車の警笛の音と、車輪のゴトゴトいう音だけが聞こえた。
「どうして……」
ただただ、呆然として言うしかない言葉。
澪は片手で両目を隠しながら、
「もうこれ以上……あんな目に合うのは……いやなんだ……。私の代わりに、伊藤が桂を守ってほしいって思うんだ。唯は律やムギがいるし」
「………………」
「だけど言葉には、私がいなくなったら誰もいなくなっちまう。だから私の代わりに桂を守ってほしいんだ」
「………………」
どうしたらいいのか、分からなかった。
唯だって、自分の父親に狙われて、下手をすれば手籠めになるかもしれない状態なのに。
「あんな目に合うのはもう、ごめんなんだ……。沢越止は他の桜ケ丘生徒も襲ってるって聞いたし」
何があったかは、分からない。
しかし、誠も唯も、澪が碌でもない目を見たことは察しがついた。
「澪ちゃん……泣かないでよ……」
唯がそばにいて、慰めてくる。
「誠君っ!!」心は再び誠をなじる。「お姉ちゃんだけじゃなくって、秋山さんだってこんな風になっちゃったんだよ!! 誠君がそばにいてくれないと!!」
誠は、無言のまま。
「私……私だって……」唯は、抱きついた誠の腕にぐっと力を入れながら、「マコちゃんと一緒にいたいんだよ……
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