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Cross Ballade
第3部:学祭2日目
第12話『変転』
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先輩って幸せよね。あんな奴が彼氏候補で、その父親もごろつきだというに、それに気づかないまま羽を伸ばしていて。挙句後輩や同級生を心配させて、世話させてさ」
「梓ちゃん。それは結局、お姉ちゃんが好きってことじゃないの?」
「……そう……なるかな。
 どっちにしても、今は伊藤に唯先輩を任せるしかないんだろうなあ」
 梓は一つ、ため息をついた。


 銀と緑のローカル線に無事に乗ることができても、誠は止がいるかどうか、心配でならなかった。
「とりあえず、親父はいないな……」
 電車の中で、誠は呟く。
 ラッシュは過ぎて、乗客は数えるほどしかいない。ところどころ座れる場所もある。
 唯はすぐに空席を見つけて座った。
 誠も、「ここいいかな?」と言って、唯の隣に座る。
 すぐに唯の左手は、誠の右手に重なった。
「…………」
 誠のぬくもりを今ここで、少しでも感じ取りたかった。
 彼の横顔は、多少染まっているものの、それでも落ち着いている。
 誠の横顔と、絶望する言葉の表情が、唯の頭の中でクルクルと回った。
「……桂さん……」
 唯は、ぽつりと言う。
「唯ちゃん?」
「桂さん、大丈夫かな、と思って」
 それを聞いて、誠は……
 意を決して、唯にあることを打ち明けようと思った。
「唯ちゃん」誠は胸にきゅっとなる感触を覚えつつ、「一つ、言っておかなければならないことがあるんだ」
「なあに?」
 と、唯。
 すると、電車のアナウンス。
『間もなく、榊野学園前に到着します』
 唯は、急に空元気になり、
「マコちゃん、行こう!」
屈託ない笑顔で、声をかけてくる。
 その無邪気な笑顔を見て、彼女に打ち明けることが、すべて消えてしまった。
 誠は黙ったまんま、唯の手を取り、榊野学園へ向かった。



続く

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