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楽しみ
第五章
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も似合うのだ。それが非常に不思議な話だ。それは巨人の選手でもだ。
 巨人から運命のトレードで阪神に来た小林繁だが彼は阪神の服が非常に似合っていた。まるで最初からいたようにだ。その服で甲子園のマウンドに立ち古巣巨人のバッター達を次々と屠っていった。思えば江本もまた阪神のユニフォームが似合っていた。彼は江夏とのトレードの結果であったがそれでも生粋の阪神人のようであった。
「いけると思ったんやが」
「八木のアーチが」
「残念なことやった。あそこで勝ってれば」
 甲子園の一戦だった。岡林が力投し阪神の前に立ちはだかった。途中から出て来て延長十五回を投げきった。その力投は見事だった。岡林は当時の弱体だったヤクルト投手陣の中で戦い続けていた。敵ながら見事であった。
「優勝でしたね」
「そやったろうなあ。あの白い電光にな」
 甲子園のバックスクリーンの光は白だ。今度はその白い光を目に浮かばせる。
「阪神の選手の名前が映ってな」
「シリーズに」
「そっからやったな、また」
 楽しいのは一年で。そうして何も残らなかった。後は果てしない長く長く暗黒時代が再開して続いたのであった。
「ピッチャーだけはよかったんやけれどなあ」
「中継ぎとか」
「うちはピッチャーにはあまり困らん」
 こうも述べる。
「幸いにしてな」
「けれどピッチャーだけでは勝てませんね」
「それを思い知ったわ」
 口をへの字に曲げて言ってきた。
「打たへんとな。何にもならへんわ」
「全くですよ」
 あの時の阪神はとにかく打たなかった。だから勝てなかった。ピッチャーも人間だから打たれる。そうした時にこっちが打たないと勝てない。野球のルールはある意味非常に単純だ。相手よりも一点でも多く取った方が勝ちだ。しかしあの頃の阪神はそれがなかった。天が取れなかったのだ。しかも全くである。
「何にもならんかったな」
「そうですね、本当に何も」
「今までも打たへんかった」
 実は小山や村山の時代がそうだった。全く打たなかった。
「それでも勝てたんは気迫やったんやな」
「気迫ですか」
「そうや」
 中沢さんは言うのだった。
「あの時の江夏も村山も鬼気迫るもんがあった。けれど今は流石にそんなピッチャーおらんやろ」
「いないですね」
 何処を探してもいない。能力はあっても気迫があるのはそうはいない。ましてや江夏や村山の気迫は人間の域を越えていた。村山はマウンドに全てを賭けて投げていた。ボールに命を込めていた。そこまで言われている。そんなピッチャーが今いるかというと無理だ。そこまでは流石に無理なのだ。
「やっぱり」
「おらんわ」
 中沢さんの言葉も決まっていた。
「絶対にな。気迫まで受け継ぐのはやっぱり無理なんや」
「だから江夏も村山も凄かったってことになるんで
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