第50話 戦極凌馬
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咲は手錠をかけられ、量産型黒影に腕を掴まれた状態でエレベーターに乗っていた。隣には、咲と同じ拘束をされた紘汰。
――あれから、気づいたら紘汰ともども病室らしき場所にいた。病室だと部屋の様子から咲は判断したが、そんな易しい展開ではなかった。
咲と紘汰はユグドラシル・コーポレーションに拉致されていたのだ。
咲たちが一応の治療を受けて寝かされていたのは、ユグドラシル・タワーの上層階の医務室。
彼女らは目が覚めるなり、計ったように部屋に入ってきた量産型黒影に脅され、着替え、こうして連行されている。
「紘汰くん、だいじょうぶ?」
「――――。あ! ごめん、うん、大丈夫」
「ほんとに? 顔色悪いよ」
互いにあんなにも噴水で濡れたのだ。この冬の真っ只中に。子供は風の子というだけあって咲は平気だったが、紘汰は受け答えのテンポも悪いし、元気がない。体調を崩しているかもしれない。
「本当に大丈夫。ありがとう、心配してくれて」
紘汰は笑ったが、その笑みはやはり精彩を欠いていた。
「ねえ、この人だけいいからちょっと待ってあげて。具合悪いみたいなの。おねがい、ねえってば」
「咲ちゃん、いいから」
エレベーターが開いた。降ろしてもらえるのかと咲は喜んだが、エレベーターの外から、戒斗が量産型黒影に連行されてエレベーターに乗り込んできただけだった。
「戒斗……」
「お前らもか」
「あ」
エレベーターが無慈悲に閉じ、動き始めた。ぬか喜びだった。咲は消沈した。
またエレベーターが停まる。今度は咲たち全員が外に連行された。
腕を乱暴に引かれて痛かったが、幼女が大の男に抵抗することもできず、咲はされるがまま歩いた。
量産型黒影に連れられて辿り着いたのは、広大なオフィスフロアだった。
一人で使うには広すぎるそこには、一人分のデスクがあり、一人の白衣の男と、ショートヘアのミニスカスーツ女がいた。
咲たちは量産型黒影によって手錠を外され、デスクより離れたところに置かれたパイプ椅子に強引に座らされた。それで役目は終わったのか、量産型黒影はオフィスを出て行った。
「仲間が手荒な真似をしてすまない。こうしてキミたちと落ち着いて話をするためには仕方なかったんだ」
デスクに座ったままふり返りもせず、男が言った。
「あんた誰だ」
「私は戦極凌馬。キミたちが使った戦極ドライバーの設計者だ」
咲は驚いて紘汰と顔を見合わせた。この、いかにもデスクワーカーの男が。咲たちを踊らせ、利用し、争うように仕向けた本人。とても見えなかった。
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