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楽しみ
第三章
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「ええ、今日もね」
 入り口の係員のお兄さんはそう答えて笑みを向けてきた。
「感心なことや。ほれ」
 中沢さんもチケットを出してきた。係員さんがそれを受けて中に入るのであった。
「あの兄ちゃんも頑張っとるな」
 彼の見送りを振り向いて受けながら述べる。
「ええことや」
「そうですね。それで」
 僕はまた話を戻す。廊下を進みながら話をする。
「あの二人は」
「江夏、村山」
 その名を語る中沢さんの顔がまるでビールを前にしたようになった。
「あの二人はなあ。今でも目にはっきりと焼きついてるで」
「忘れませんか」
「天覧試合なんかあれやで」
 昭和の懐かしい時代の話である。昭和帝と皇后両陛下をお招きした伝説の一戦である。この時村山は小山の後で登板して長嶋と戦い、そして敗れている。
「あれはホームランやったやろな」
 そう言う。
「けれどな、それでもええんや」
 そのうえで言うのだった。
「長嶋との勝負はそれからもずっと続いたしな」
「巨人との戦いも」
「その通りや。巨人との戦いはどれも立派やった」
 村山は常に正々堂々と戦っていた。退くことはなかった。真っ向勝負を挑み、勝ちもすれば敗れもする。そこには卑怯というものは微塵もなかった。
「長嶋に対しては一番凄かったな」
 その村山の最大のライバルこそが長嶋だった。彼はミスタープロ野球を永遠のライバルと定め速球とフォークで立ち向かったのだった。
「村山がおるマウンドこそが絶対やった。マウンドは村山の為にあったんや」
「村山の為に」
「そう、村山も江夏も特別やったんや」
 話しているうちに廊下を出た。グラウンドが下に見える。
「ほら、あそこやな」
「あそこですね」
「あそこではホンマに色々なことがあったで」
 僕達は一塁側からそのマウンドを見ていた。
「村山が仁王立ちして江夏が相手を睨み据えてな」
「睨み据えて、ですか」
「あの左腕が唸って見たこともない剛速球が放たれる」
 話は江夏に移っていた。彼は左腕から投げられる剛速球の速度は異常なまでだったのだ。

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