第二章
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「一つやり方がある」
「というと」
「それは」
「和上は今度は福州の港から日本に行かれるのだな」
「うむ、そうだ」
「そうお考えだ」
「それならだ」
このことからだ、霊佑は言うのだった。
「私が先にあちらに行ってだ」
「そしてか」
「手を打つのか」
「そうする」
こう言うのだった。
「任せてくれるか」
「それで和上をお止め出来るのだな」
「そう出来るのだな」
「必ずな」
霊佑は確かな声で同門の僧達に答えた、そうして。
彼は鑑真と主な弟子達に先回りをして福州に向かった、鑑真は旅に出ると行ってそそくさとしかも自分から視線を逸らして寺を後にする彼を見て言った。
「若しや霊佑は」
「和上の元を去られるのでしょうか」
「あの方が」
皆霊佑達と同じ考えではない、あくまで鑑真と共に行くと決めている弟子達は鑑真の後ろから師に対して言った。
「まさかと思いますが」
「あのご様子は」
「いや、それはないであろう」
鑑真は彼等にこう返した。
「霊佑は私を慕ってくれている、、だからな」
「それはありませんか」
「あの方は」
「うむ、だが」
だが、だった。鑑真も彼から察していた。それで言うのだった。
「やはり何かな」
「お考えですか」
「あの方は」
「常に私のことを案じてくれている」
霊佑の鑑真への敬愛は弟子達の中でも相当なものだ、彼は自分のことよりもまず師のことを気にかける男なのだ。
だからだとだ、鑑真は言うのだ。
「しかし人の心は強過ぎるとだ」
「煩悩になりますね」
「どうしたものでも」
「その心にとらわれてしまう」
まさにだ、そうなるというのだ。
「あの者にしてもな」
「では、ですか」
「霊佑殿は」
「何を考えているかまではわからないが」
「あの方も煩悩にとらわれていますか」
「あれ程の方でも」
「煩悩から逃れることは難しい」
鑑真もこのことがよくわかっていた、煩悩を取り払い解脱することが仏教の教えであるがこれが非常に難しいのだ。
「悟りを開くことはな、私にしてもな」
「和上もですか」
「まだ悟りには」
「まだだ」
自分でだ、こう言ったのである。
「私なぞ悟りには全く辿り着いていない」
「いえ、和上は」
「私達から見ますと」
「まだだ、悟りに至ってはいない」
鑑真ですらだ、そして無論霊佑もだった。
それでだ、今は旅に出たという霊佑のことを案じて言うのだった。
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