第二章
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第二章
しかしであった。人は歳を取るものだ。そしてそれによって衰えるものである。これは福本も人間であるから避けられないことであった。
まずその看板だった盗塁王のタイトルをだ。引き渡すことになった。
阪急の伝統的なライバルであると言ってもいい近鉄バファローズに大石大次郎という選手が出た。小柄だが足は滅法速かった。彼はこう言った。
「福本さんから盗塁王のタイトルを奪ってみせますよ」
「おいおい、凄いこと言うね」
「福本さんからかい?」
「はい、絶対に」
それを公言するだけのことはあった。彼は実際に盗塁王のタイトルを福本から奪った形になった。その時周囲は言うのだった。
「大石もかなり速いけれどな」
「福本さん衰えたよな」
「ああ、それは否定できないよな」
「もう歳だしな」
流石に三十代後半になるとだ。野球選手としてそれは否定できなくなっていた。そしてそれは脚だけではなくなっていたのである。
「ううん、どやろな」
阪急の監督である上田利治が難しい顔をしていた。温厚な知将でありその安定した采配には定評がある人物のである。
「フクもなあ」
「何かありますか?」
「フクに」
「守備は相変わらずええよ」
上田はコーチ達に対してまずは守備から話した。
「それはな」
「ええ、確かに」
「相変わらずいいですよね」
「熟練のものがありますよ」
「ただな」
しかしであった。上田は言うのであった。
「問題は肩や」
「肩ですか」
「それなんですね」
「フクの守備はまだまだセンターをやれる」
それについては太鼓判を押す。
「脚もな。けど肩がや」
「確かに。衰えてきましたね」
「今まではセンターとしてはまあ及第点でしたが」
唸る程ではなかったのだ。福本は強肩かというとそうではないのだ。彼はそこまで肩は強くはなかった。そして肩は歳と共に最も衰えが目立つものの一つなのである。
「センターとしては辛くなりましたね」
「その通りですね」
「やっぱりあれやな」
上田はここで言った。
「コンバートや。センターはミノや」
「蓑田ですか」
「あいつをですね」
「あいつは若い」
蓑田浩二である。馬よりも速いと言われる快速で昭和五十二年の日本シリーズでは驚異的な代走として走塁を見せてシリーズの勝敗を決した。そしてその守備も肩、とりわけ強肩が凄い男だった。無論バッティングもかなりのものだ。その彼だというのだ。
「あいつがセンターや」
「そうですか。それじゃあ」
「フクは」
「レフトやな」
そこにするというのだ。
「レフトにコンバートや。それでええな」
「はい、それじゃあそれで」
「フクはレフトで」
こうして彼はレフトにコンバートされることになった。それが告げられるとだ。彼は笑
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