第九章
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うな笑みだった。こうして見ると意外に表情豊かだと。彼は思うのだった。
「投げるよ」
「ああ、来い」
赤藤に応えて投げた。投げたボールはゆっくりと放物線を描いている。さっき赤藤が投げたあのボールと同じだった。赤藤もそのボールを見ている。
「ところで」
「何だい?」
「俺はこのまま少しずつ投げていくぜ」
「ああ」
「それでな。復帰は」
復帰の話を出すのだった。ここで。
「六月に戻るぜ」
「六月なんだね」
「ああ、そのつもりだ」
それを目指していた。もう決意していたのだった。
「何があってもな」
「そうか。じゃあ頑張るんだね」
「それでな」
ここでまた赤藤は言う。ボールは高々とあがっていく。
「一つ言いたいことがあるんだけれどな」
「今度は何だい?」
「六月に復帰するだろ」
「それはさっき言ったよ、今さっき」
「だからな。それでだよ」
未樹に突っ込まれたがまだ言うのだった。
「その復帰戦、来てくれないか」
「私がかい?」
「ああ、そうだよ」
こう未樹に対して言うのだった。
「チケット用意しておくからな。それでな」
「呼んでくれるんだね」
「いいか?」
「いいよ」
未樹は今度も笑った。これまで以上に明るい笑顔で。
「是非。行かせてもらうよ」
「そうか。じゃあその時は絶対に勝たなくちゃな」
赤藤もまた未樹と同じ笑顔になっていた。
「何があってもな」
「復帰でいきなり勝利投手か」
「俺はいざって時には絶対負けないんだよ」
自信が戻ってきていた。もう投げている時の赤藤になっていた。
「ここ一番の大勝負でも日本シリーズでも。常に勝ってきたんだよ」
「そうだったんだ」
「そうさ。その時のウィニングボール」
完全に予告だった。
「楽しみにしていろよ」
「そうさせてもらうよ」
二人は同じ笑顔で頷き合った。二人は誓い合った。これからの野球のことを。そして六月復帰を果たした彼は見事白いボールを未樹に手渡すことができた。誰も知らない復活劇である。
エース 完
2008・6・30
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