第八章
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げたのだった。
「おっ!?」
「どうしたんだい?」
「やぱりいいな」
投げ終えたその瞬間に。笑みを浮かべたのだった。
「投げるっていうのは」
「いいんだね」
「ああ、やっぱりいい」
ボールは高々と、そしてゆっくりと宙を舞う。久し振りに投げたせいかかなりゆっくりである。
「投げるのは。いいな」
「そうだろうね。わかるよ」
未樹もそれに応えて頷いた。
「私もあの時はそうだったし」
「そうだったのか」
「そうさ。最初は確かに怖かったけれど」
またその時の話になった。しかし今度は別の意味合いになっていた。
「それでも。いざ走ると」
「気持ちよかったか」
「今のあんたと同じだね」
また言った。
「そこのところもね」
「そうか」
「さて、ボールだけれど」
ボールはまだ宙を舞っている。山なりにゆっくりと。宙を舞い続けていた。二人は今度はそのボールを眺めていた。それぞれの目で。
「そろそろかね」
「悪いな、ゆっくりで」
「いいさ。久し振りなんだろ?」
「ああ」
もう隠さなかった。何もかも。
「あえてゆっくりに投げたしな」
「じゃあこんなものさ。これでいいんだよ」
「いいんだな」
「ああ、いいさ」
やっと落ちてきた。次第に速くなっていく。赤藤も未樹もそのボールを見上げている。
未樹はそのボールをゆっくりと受け止めた。左手に嵌めているそのグローブで。彼女がキャッチしたのを見て赤藤は微笑みつつ言うのであった。
「上手いな」
「そうかね」
「ああ、上手いさ」
そう未樹に言うのだった。笑顔と共に。
「野球殆どしたことないんだよな」
「ああ、そうだよ」
隠すことなく述べてみせる未樹だった。
「その通りさ。ずっと陸上一本さ」
「それでそれか」
「従弟相手にしていたからね」
「それでも筋がいいな」
赤藤はあらためてこう言うのだった。
「随分と。しかも左利きなのに」
「だってボール緩かったしさ」
ここで未樹の顔が変わった。その顔を見て赤藤は思わず言った。
「おい、今のあんた」
「?どうしたんだい?」
「笑ってるぞ」
彼が言うのはそれだった。
「笑えたんだな、あんた」
「あっ、笑ってる?私」
「ああ、笑ってるぜ」
穏やかな顔で微笑んでいたのだ。しかしそれを見ている赤藤もまた笑っていた。笑いつつ言葉をかけていくのだった。未樹に対して。
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