第七章
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度いい、グローブはもう一個あるんだよ」
「もう一個あったんだ」
「スペアでな。いつも持ち歩いているんだ」
そういうことだった。
「メインで使っている一個が潰れた場合にってな。用意しているんだよ」
「そうかい、用意がいいね」
「そうだよ。けれど用心していてよかったな」
「そうだね。それじゃあ」
「ああ。ほら」
ここでグローブを一個出してきた。それを未樹に手渡す。
「使えよ。それで俺のボール受けてくれ」
「ああ。あれっ?」
「どうした?」
「このグローブ右利きなんだね」
未樹が今度言うのはそのことだった。
「よく見れば」
「当たり前だろう、俺は右利きだぜ」
今度は屈託のない笑みで未樹に告げるのだった。
「だからそれも当然だろ」
「そういえばそうか」
「そうだよ。ひょっとしてあんた」
「ああ、実は左利きなんだ」
こう赤藤に答えるのだった。やはり表情は変わらないが。
「今まで黙っていたけれどね」
「今はじめて知ったぞ」
「言う必要もなかったしね」
考えてみればそうだった。今までは走っているだけだった。それでどうして利き腕が問題になるのか。妥当といえばあまりにも妥当な話であった。
「悪いね」
「いいさ、あんたが悪いんじゃない」
こう言って未樹を慰めるのだった。
「だからいいさ。けれど左利きか」
「ああ、いいさ」
今度は未樹が言ってきた。そのまま赤藤に言葉を返す。
「何とかやってみるよ。キャッチボール位ならね」
「できるか?」
「まあ大丈夫だろうね」
少し首を傾げてから述べた言葉だ。
「だから。やろうよ」
「ああ、わかった」
未樹の言葉を受けて頷く。こうして二人はキャッチボールをすることになった。まずは適度に間を空けて。そのうえではじめるのだった。
はじめる前にまた。赤藤は未樹に声をかけてきた。
「ところであんた」
「何だい?」
「ちょっと思ったんだけれどな」
こう彼女に言ってきた。
「何をだい?」
「あんた陸上部だよな」
「ああ」
その話だった。未樹もまた赤藤の言葉を聞いていた。しかしそれでもまだ投げない。ボールを握って投げようとしているだけである。まだ。
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