第一章
[2]次話
ふとした弾みで
ダブリンの青年ロナルド=オコーネルはこの時冗談抜きに困っていた、カレッジは何とか出られたがそれでもだったのだ。
「仕事ないのね」
「ああ、ないよ」
家に戻ってこう母に漏らす、横には父がいる。
「何処にもね」
「今のこの国はね」
「本当に何もないよ」
就職口がだというのだ。
「カレッジを出てもね」
「あんた文学だったわよね」
「教員資格と図書館勤務と博物館の学芸員とね」
三つの資格を持っている、だが。
「どれもないってさ」
「凄いわね」
「不況も不況でね」
そのせいでだというのだ。
「仕事がないよ」
「全くなのね」
「うん、ないよ」
これが全く、だというのだ。
「困ったよ」
「そうなのね」
「どうしようかな」
「資格三つも持っててそれなの」
「本当に何処もなんだ」
学校も図書館も博物館もだというのだ。
「ないんだよ」
「肉体労働とかは?サービス業は」
「そっちも探したよ」
既にだというのだ、だがだったのだ。
「なかったよ」
「本当にないんだな」
横で話を聞いていた父も困った顔で言う。
「若い子の仕事は」
「今のアイルランドではね」
「全くだな、ただ」
「仕事はないとね」
「どうするんだ、本当に」
父も息子に対して言う。
「それで」
「ダブリンじゃ仕事はないから」
ロナルドは仕方のない顔で述べた。
「他のところに行くしかないね」
「やれやれだな、首都でもこれか」
人が集まる筈の街でもだというのだ。
「アイルランドもどうなるんだ」
「EU全体がそうだよ、ドイツ以外は全部どうなるかわからないよ」
「そのドイツもな」
この国もだった、欧州の軸であるこの国も。
「周りにたかられまくってな」
「あれじゃあそのうち崩れるよ」
ロナルドはこのあたりも詳しい、それで言うのだった。
「ドイツにしてもね」
「じゃあ欧州を出るか?」
「欧州を?」
「そうするか?」
「無理じゃないかな、それも」
ここでこう言ったロナルドだった。
「だって欧州に出ても」
「御前英語とアイルランド語しか喋れなかったな」
「イギリスなら生きられるよ」
「おいおい、イギリスも欧州だぞ」
ユーロに入ってはいるがEUにある、それで言うのだった。
「景気は悪いぞ」
「うん、オリンピックがあってもね」
不景気を跳ね返すまでには至らなかった、イギリスも辛いのだ。
それにイギリスだ、このことについては母が言った。
「イギリスなんて問題外でしょ」
「うん、感情的にもね」
ロナルドもその通りだと答える。
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